少女マンガで歴史にひたる。文芸評論家が選んだ100作『少女マンガ 歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』
#本 #マンガ #歴史
少女マンガというとまず、中学生の時、好きな女の子から貸してもらった矢沢あいの『天使なんかじゃない』(集英社)が思い浮かぶ。彼女は「付き合った男全員に『天ない』を無理矢理読ませる」という変な癖さえなければ、広末涼子似のパーフェクトな美少女だったが、大人になった今でも、夫や恋人に『天ない』を読ませているのだろうか――。このように、少女マンガ一冊一冊にはさまざまな思い出が詰まっていることだろう。
彼女が『天ない』を無理矢理読ませてくれたおかげで、その後、多くの少女マンガを読むようになった。『少女マンガ 歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』(河出書房新社)は、文芸評論家の細谷正充氏が、歴史・時代ものの少女マンガ100作を厳選し、紹介したガイドブックだ。山岸涼子『日出処の天子』(白泉社)、池田理代子『ベルサイユのばら』(集英社)といった不朽の名作から、近年では惣領冬実のイタリア大河ロマン『チェーザレ 破壊の創造者』(講談社)や、鈴木ジュリエッタの西遊記ファンタジー『トリピタカ・トリニーク』(白泉社)まで幅広く取り上げている。デビュー時の作家の印象など、細谷氏がリアルタイムで読んできた感覚が事細かに記されており、単なるガイドブックに留まらない読み応えのあるものとなっている。
取り上げられた作品はいずれも名作ぞろいだが、ひとつだけ選ぶとしたら、坂田靖子の『バジル氏の優雅な生活』(白泉社)を挙げたい。英ヴィクトリア朝の貴族社会を描いたこの作品を、細谷氏は以下のように語っている。
「(前略)その中で、個人的にもっとも愛着が深いのが、『バジル氏の優雅な生活』だ。主人公は有閑貴族のバジル・ウォーレン卿。プレイボーイだが、気のいいお節介で、すぐに困っている人の世話を焼く。ただし、人の出来ることの限界も弁えており、愚か者には手厳しい。(中略)人の心を見抜き、何度も恋のキューピッド役を務めるバジル氏の、小粋な立回りが素敵なのだ。そして、この魅力的なヴィクトリア朝の世界と会いたくて、何度も本作を読み返してしまうのである」(本書P174-175)
そう、何度も読み返してしまうんですよね。ラブコメだけでなく、ミステリーやサスペンスなど、多彩なストーリーを楽しめる賑やかな作品だ。
現在、「まんがホーム」で連載中の杜康潤(とこう・じゅん)『孔明のヨメ。』(芳文社)も見逃せない。ゲーム『三国無双』シリーズなどでおなじみの諸葛孔明の妻・黄月英と諸葛孔明の新婚生活を描いた4コママンガだ。諸葛孔明が180cmを超す大男であったなど、やたらと細かい三国志うんちくが面白い。漢代の文化についても注釈が添えられ、三国志ファン必読の作品だ。細谷氏も「本作の一番の魅力は孔明と月英のいちゃラブである。時代の激流の中で、ふたりがいつまでも変わらずにいることを祈りたい」(本書P212-213)と絶賛している。
ラブストーリー主体の少女マンガは、男性にはなかなか手に取りづらいものだが、歴史ものは男性にも読みやすいジャンルといえるだろう。この『少女マンガ 歴史・時代ロマン 決定版全100作ガイド』で未読の作品をチェックをし、既読の名作の思い出を振り返る。そんな正月休みも有意義かもしれない。
(文=平野遼)
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