平成30年、世間を騒がせた日本映画界10大事件!! 宗教映画の跋扈、お家騒動、伝説の大コケ映画……
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4)ウルトラマンが泣いている
円谷英二と言えば、『ゴジラ』(54)の特技監督を務め、『ウルトラマン』(TBS系)で怪獣ブームを巻き起こした特撮の神さま。その円谷英二が創業した「円谷プロ」でのお家騒動が表面化したのが2004年。円谷英二の長男・一(2代目社長)の長男が5代目社長を継いでいたが、女子社員から過去のセクハラ行為を訴えられて辞任。次男が6代目社長となるも、従兄弟である4代目社長(円谷英二の次男・皐の息子)の息のかかった役員たちによって「役員会を軽視した」と解任されてしまう。団結力を誇るウルトラマンファミリーと、円谷一族はまったく違った。内紛続きの後、円谷プロは企業買収を得意とする会社に乗っ取られ、円谷一族は一掃されることに。このへんの内情は『ウルトラマンが泣いている 円谷プロの失敗』(講談社現代新書)で詳しく語られている。
その後の円谷プロは、円谷英二時代の現場を知る元カメラマンの大岡新一氏が製作部長を経て、2008年に社長に就任。新作を作る度に赤字になることが当たり前になっていた長年の放漫体質を改め、借金のない健全経営へと立て直した。ちなみに大岡氏は『ウルトラマン』シリーズの中で最も好きなエピソードに、『帰ってきたウルトラマン』(TBS系)の「怪獣使いと少年」を挙げている。「経営についてはいずれ有能な後進に譲り、一カメラマンに戻りたい」(週刊現代2015年11月14日号)と語り、現在は相談役に退いている。昭和から続いた負の遺産を整理した、まさに“帰ってきたウルトラマン”だった。
3)宗教アニメがアカデミー賞ノミネート?
毎週土曜の午前、国内映画の興収ランキングを紹介している『王様のブランチ』(TBS系)だが、2018年10月は2週にわたってちょっとした異変が起きた。2週連続でランキング1位になった新作映画について、映画コメンテーターのLiLiCoや出演者全員がひと言も口を開かずに映画コーナーを終えたのだ。このとき1位になったのは、アニメ映画『宇宙の法 黎明編』。「幸福の科学」の大川隆法総裁が製作総指揮・原案を務めた作品だった。
2018年5月には清水富美加改め千眼美子がヒロインを演じた、大川隆法の自伝映画『さらば青春、されど青春。』も公開された。また、アニメ映画『UFO学園の秘密』(15)は、米国のアカデミー賞長編アニメ部門に『思い出のマーニー』『バケモノの子』と共に日本代表作品としてエントリーされている。最終的なノミネートに残ったのは『思い出のマーニー』だけだったが、大川総裁がオスカーに近づいた瞬間だった。
宗教団体と映画界の関係をひも解くと、過去には創価学会の初代理事長・戸田城聖を丹波哲郎が演じた『人間革命』(73)が東宝系で全国公開され、その年の大ヒット作『日本沈没』に次ぐ観客動員を記録している。アニメブームの発火点となった『宇宙戦艦ヤマト』が77年に劇場公開された際には、西崎義展プロデューサーは創価学会系の団体「民音」で前売り券30万枚をさばいてもらい、『ヤマト』をヒットへと導いた。映画と宗教は思いのほか親和性が高いと言えるだろう。
2)会社組織は街宣車に弱かった
日中合作ドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』(07)は劇場公開前に大きな波紋を呼んだ。「反日映画だ」と報じた「週刊新潮」の記事を読んだ自民党の稲田朋美国会議員が、文化庁の助成金を『靖国』が受けていることに疑問を投げ掛けたことから、騒ぎが広まった。上映を予定していた銀座シネパトスや都内のシネコンに抗議の電話が殺到し、公開中止を求める街宣車がシネパトスの前に現われた。表現の自由を侵害する行為だという反論もあったが、当初公開を予定していた映画館は、公開中止に追い込まれた。
和歌山県太地町で行なわれているイルカ漁の様子を米国人クルーが盗み撮りしたドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』(09)も2010年の日本での公開前に大変な騒ぎとなったが、肝心の映画の公開が始まると論争は過熱することなく次第に沈静化していった。全体像のよく見えないものや外来者に対する警戒心、恐怖心が騒ぎをよりヒステリックなものにしていたようだ。『ザ・コーヴ』の内容に疑問を覚えた八木景子監督は、自費を投じて反証映画『ビハインド・ザ・コーヴ 捕鯨問題の謎に迫る』(16)を製作し、日本だけでなく米国や各国での上映を続けている。『ビハンド・ザ・コーヴ』の公開時、八木監督が「配給や宣伝まで個人でやったのがよかったと思う。企業だったら抗議メールが殺到していたんじゃないでしょうか」と笑顔で語った言葉が印象的だった。
1)日本の興収No.1映画は……?
日本映画の歴代興収ランキングは宮崎駿監督の劇場アニメ『千と千尋の神隠し』(01)の308億円が、やはり宮崎監督の『もののけ姫』(97)の193億円を抜いて以来、不動の1位の座を守っている。ところが、宮崎監督の『千と千尋』が日本映画の興収1位という認識は、日本人だけのものだった。新海誠監督の『君の名は。』(16)は国内興収250.3億円を記録し、『千と千尋』に次ぐ2位とされているが、世界興収では中国や韓国などアジア各国でも人気を呼んだ『君の名は。』は3.55億ドル(日本円で約393億円)を稼ぎ、『千と千尋』の世界興収2.75億ドルを上回っている。引退を撤回した宮崎監督やスタジオジブリに対する配慮なのか、このことはあまり大きなニュースにはならなかった。これからは国内興収ではなく、世界興収でランキング発表したほうが、映画業界の活性化のためにもよいのではないだろうか。
(文=長野辰次)
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