トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 非モテ系が超絶美女に!?
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.512

ポジティブ思考で非モテ系が超絶美女に大変身!? 幸せになる秘訣『アイ・フィール・プリティ!』

ビキニコンテストに飛び入り参加したレネーは、会場中の男性たちを圧倒してしまうセクシーダンスを披露する。

 汗だくになって踊るレネーを見ていた初対面の男が、イーサンに話し掛ける。「高速道路で車がパンクしたとき、一緒にいたいのはあんな子だよ」と。ステージに並ぶビキニ姿の若い美女たちよりも、自分のすべてをさらけ出して一途に踊るこのぽっちゃり女子のことが堪らなくラブリーに思えてきてしまう。

 恋愛は、それこそ思い込みの産物だ。米国のロマンティックコメディには思い込み、勘違いをネタにした作品が少なくない。ファレリー兄弟の『愛しのローズマリー』(01)では、女性を外見でしか判断できない小デブ男(ジャック・ブラック)が催眠術によって体重130kgの女性(グウィネス・パルトロー)を絶世の美女と思い込んで猛アタックした。『イエスマン“YES”は人生のパスワード』(08)では、自己啓発セミナーに通う主人公(ジム・キャリー)がどんなときも「イエス」と答えることで、ズーイー・デシャネルと出逢うことになる。『スコルピオンの恋まじない』(01)では、犬猿の仲の男女(ウディ・アレン、ヘレン・ハント)が催眠術によって熱愛関係に陥る。これらの作品を観ていると、恋愛とは一種の自己催眠ではないのかという気がしてくる。

 本作の面白さは、主演のエイミー・シューマーが変身前と変身後をCGなどで加工することなく、本人がまったくそのまま演じているところ。姿はまるで変わっていないのに、頭を打った後は自分を美女だと思い込み、堂々と恋も仕事も大成功を収めていく。さらに自信を深めたことで、彼女の周囲にはイケメンやセレブたちが集まるようになっていく。コンプレックスから解放され、他者から愛される喜びを知ったヒロインは、ますます輝きを増し、本来の才能を発揮し始める。ここらへんの展開は、レディー・ガガ主演の話題作『アリー/スター誕生』(現在公開中)ととてもよく似ている。お笑い版『スター誕生』だとも言えるだろう。

 自分の体型を気にせず、いつも明るいレネーを見て、多くの人たちは勇気づけられる。草食系のイーサンは職場で「ホモっぽい」とからかわれていたが、レネーと付き合うようになって他人の視線が気にならなくなった。社長のエイヴリは甲高い自分の声にコンプレックスを長年抱いていたが、人生を満喫しているレネーと話していると、些細なことで悩んでいる自分がバカらしく思えてしまう。レネーにはコンプレックスをその人の個性へと反転させてしまう大らかな魅力に溢れていた。

 物語は後半、お約束どおりの展開が待っている。シンデレラ姫と同じように、レネーもまた魔法が解けることになる。自分が元のぽっちゃり体型に戻ってしまったことを嘆くレネーはアパートに閉じ篭り、会社にも出社せず、恋人のイーサンとも会おうとしなくなる。周囲の人間はレネーがなんでそんなに落ち込んでいるのか、さっぱり理解することができない。外見で判断されることに悩まされ続けてきたレネーだが、実は外見にいちばん囚われていたのはレネー自身だったことが分かる。

 いじけた表情のレネーも、また愛らしい。コンプレックスに悩む姿も含めて、彼女自身なのだ。自分自身を愛することができれば、世界はほんの少し扉を開けてくれる。シンプルだけど、大切なことをNYで暮らすこのぽっちゃり女子は教えてくれる。大いに笑わせ、最後にホロリとさせてくれる。うさん臭い自己啓発セミナーに通うよりは、ずいぶんとリーズナブルでお得な映画ではなだろうか。
(文=長野辰次)

『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』
監督/マーク・シルヴァースタイン&アビー・コーン
出演/エイミー・シューマー、ミシェル・ウィリアムズ、エミリー・ラタコウスキー、ナオミ・キャンベル
配給/REGENTS 12月28日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
(c) MMXVIII Voltage Pictures, LLC. All rights Reserved.
http://ifeelpretty.jp

最終更新:2018/12/28 20:30
12
ページ上部へ戻る

配給映画