マスコミをマスゴミにした『共犯者たち』は誰!? 元NHK・堀潤氏が語る権力とメディアとの関係
#映画 #インタビュー #NHK #堀潤
■NHKを辞めることになった本当の理由
──堀さんはNHK在職中、3.11の報道の在り方に批判的なことをTwitter上で呟いたところ、国会議員からクレームがあり、上司からTwitterを止めさせられたと聞いています。
堀 実を言うと、あれはとても些末な出来事でした。僕のTwitter上の発言に対して圧力があったということになっていますが、その圧力は本当に政治家からだったのか、経営陣の判断だったのか、はっきりしていません。そのように上司から説明されただけなんです。政治的圧力を理由に、自分たちから言論の自由を放棄してしまうことに不快さと寂しさを感じて、その時点で「NHK、辞めます」と上司に伝えました。そのときは「まぁまぁ」となだめられ、それでLAへ留学することになったんですが、留学中に僕が撮った日米の原発メルトダウン事故についてのドキュメンタリー映画『変身 Metamorphosis』を地元の市民が上映したいと申し出てくれたことに上司はNGを出したんです。LAの市民にまでNHKは連絡を入れ、上映会を取り止めさせた。それがいちばん悲しかったですね。他国の人たちが情報を発信しようという権利にまで圧力を掛けてしまう。民主主義の発展を標榜しているはずのメディアに対して恥ずかしさを感じて、上司にその場で文句を言いました。それから日本に帰国し、より自由な報道の場を求めてNHKを退職することになったんです。
──NHKを辞めた原因は、政治家からの圧力ではなかった?
堀 政治家はメディアに対して圧力を掛けるなんて、ヘタはそうそうは打ちません(笑)。圧力を掛けたことが明らかになれば、政治家にとってはリスクになりますから。僕が嫌だったのは、世間からバッシングを浴びるんじゃないかと心配して、とにかく穏便に済ませようとする局内の雰囲気、信頼関係のなさだったんです。僕が主宰している「8bitNews」で、当時101歳だったジャーナリスト・むのたけじさんをインタビューしたことがあります。むのさんは2016年に亡くなられましたが、戦時中は朝日新聞に勤め、日本がポツダム宣言を受諾した1945年8月15日に朝日新聞を退職し、故郷の秋田県横手市で「たいまつ」という反戦を訴えた新聞を出し続けた方です。「むのさんのようなジャーナリストがいたのに、朝日をはじめとする大手新聞はどうして大本営発表に加担したんですか。軍部の圧力がすごかったんですか?」と尋ねたところ、むのさんの第一声は「圧力なんか掛けるわけないじゃない。彼らは笑っているだけだよ」というものでした。組織を守るために、生業を失わないように、新聞社と記者たちは大本営の発表を受け入れ、さらには社内検閲まで自主的に設け、それを軍部は笑って見ているだけだったと話してくれました。この構造は今も変わっていないと思います。メディアや企業だけでなく、日常的にもこれは起きうること。その危険性を意識して変えていかないと、権力者にうまく利用され、あっという間にコントロールされてしまいます。市民一人ひとりが声を上げていくことが大事です。それもあって「8bitNews」を立ち上げることにしたんです。
■マスメディアは権力とは闘わない
──マスメディアには権力を監視する役割があると言われますが、堀さんはどのように考えていますか。
堀 メディアは“大衆の鏡”とも言われていますよね(笑)。ですから、僕ら大衆側の人間に、権力を監視するぞというモチベーションがあるかどうか次第だと思うんです。俺は権力を監視する気もないし、声を上げるつもりもないけど、マスメディアは権力を監視し、声を上げるべきだという考え方ではダメでしょう。メディアで働いているのは大衆の一人であり、決して独立した機構ではないわけです。もっと言えば、政治の世界も司法界も本当は大衆と繋がっているものです。権力を監視し、変えていくのは大衆の一人ひとりなんだと思います。『共犯者たち』はそのことを伝えているように僕は思います。
──NHKでアナウンサーとして活躍していた堀さんに、もうひとつお訊きしたいことがあります。NHKのトップである会長がどのようにして選ばれているのかは、NHKの局員にも分からないものなんですか?
堀 NHK会長の選出に関しては構造上、誰もタッチできないんです。経営委員会が会長を選出しているわけですが、経営委員は内閣に指名された人たちです。その経営委員たちが会長に誰を選ぶかは、局員も視聴者もいっさい関知することができません。従来はNHK内から会長が選ばれていましたが、ここ10年は外部から会長を連れてくるようになりました。でも、これはNHKの身から出た錆なんです。NHKで不祥事が相次ぎ、「国民から受信料を集めておきながら、あいつらロクなことしない」という世評ができてしまい、NHKをコントロールしたいという権力側の思惑と合致してしまった。権力は常にメディアをコントロールしようとします。だから、放送局側はスキを与えちゃダメなんです。公共放送であるNHKはお上のものだと思われがちですが、公共料金を払っているのは我々ですから、我々市民のものであるはずなんです。僕は「NHKは日本最大の市民メディアですよね」と事あるごとに言うようにしています。「自分たちがお金を払っているのに、会長を選ぶ議決権がないのはおかしい」とみんなが声を上げていけば、放送改革に繋がっていくはずです。先ほどのトークの中で、森達也監督がいいことを言っていましたよね。「中国の人たちは端から自国のメディアを信用していない」と(笑)。そういう自覚を、僕らも持っていたほうがいいと思います。権力と闘うのがメディアではなく、権力と結び付くのがメディアなんだと。そのことを意識して、自分たちで変えていこうと声を上げていくことが大切だと思いますね。
──堀さんが主宰している「8bitNews」には、クレームは届きませんか?
堀 「8bitNews」はいろんな声をいただいていていますが、クレームはないです。僕もNHKを辞めてフリーランスとして、いろんな番組に呼ばれていますが、「こんなことはしゃべらないで」と言われることはないですね。結局、NHKという組織にいたことで忖度が働いていたんだなということが、フリーになって分かりました。発言の内容は全て個人の責任になるわけです。NHK時代はいいドキュメンタリー番組を作って思うような視聴率を残せないと、「せっかくいい番組を作ったのに視聴率が悪かったのは、視聴者のみなさんのせいですよ」なんてことは心で思っても、決して口には出せませんでした。でも、今はフリーな立場なので、何でも自由に発言できます。いちばん怖いのは「こんなことを言ったら、仕事が来なくなるかも」と自己忖度して、言いたいことを言わなくなってしまうことでしょうね。トークショーで森達也さんが言っていらっしゃったように自分自身がいちばん怖い相手なんだなと思いますね。
(取材・文=長野辰次)
『共犯者たち』
監督/チェ・スンホ 脚本/チョン・ジェホン 撮影/チェ・ヒョンソク 音楽/チョン・ヨンジン 製作/ニュース打破
配給/東風 ポレポレ東中野ほか全国順次公開中。
2019年1月5日(土)より渋谷ユーロスペースにて拡大上映決定。『スパイネーション/自白』と同時公開。
(c)KCIJ Newstapa
http://www.kyohanspy.com
●堀潤(ほり・じゅん)
1977年兵庫県生まれ。2001年にNHKに入局。『ニュースウォッチ9』のレポーター、『Bisスポ』のキャスターなどを担当。12年より市民ニュースサイト「8bitNews」を立ち上げ、13年にNHKを退職。NHKを辞めた経緯は著書『僕がメディアで伝えたいこと』(講談社現代新書)、客員研究員としてUCLA留学中に製作したドキュメンタリー映画『変身 Metamorphosis』の内容は『変身 メルトダウン後の世界』(KADOKAWA)で詳しく語られている。
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