テーマは“生活”……伝説のインディペンデント誌が復活「生活考察Vol.6」
#本
インディペンデント・マガジンが、静かな流行を迎えている。現在、数多くのインディペンデント誌が発行されているが、ひとつだけ例を挙げると、現役藝大生が創刊したインディペンデント・ファッション誌「HIGH(er) magazine」は、各メディアで取り上げられ、在庫はほぼソールドアウト。ハイブランド・フェンディや「ELLEgirl」(運営:ハースト婦人画報社)とのコラボレーションも果たし、大きな注目を集めている。
こうしたミニコミ誌、ZINE、リトルプレス(1,000~3,000ほどの少部数で発行する自主制作の出版物)、インディペンデント誌復権の潮流は、日本のみならず、世界中で巻き起こっている。
創刊以来、密かな人気を博していたインディペンデント誌「生活考察」が、前号から約5年の休止期間を経て再始動した。「生活考察Vol.6」(タバブックス)は、ライター・編集者の辻本力氏が、2010年に創刊したインディペンデント誌だ。
小説家の円城塔氏をはじめ、海猫沢めろん氏、福永信氏、評論家の栗原裕一郎氏、佐々木敦氏、速水健朗氏、漫画家のpanpanya氏、ロックバンド「Have a Nice Day!」の浅見北斗氏など、各分野の第一線で活躍する22名の書き手が“生活”をテーマにした多種多様なエッセイを寄稿している。エッセイの他にも、春日武彦氏×穂村弘氏×海猫沢めろん氏の鼎談「僕らは大人になれたのか? これからの“成熟”考」や、小説家の柴崎友香氏×滝口悠生氏の対談「散歩と文学 歩くこと、考えること、そして書くこと」など興味深いコンテンツが揃い、中身の詰まった濃い内容となっている。
中でも小説家・王谷晶氏の「未来世紀豚汁」が秀逸だ。「生活考察」から執筆依頼を受けた作者は、担当編集者との打ち合わせに向かうのだが、現れた編集者はビヨンセ似の美女で、谷間を強調した画像をLINEで送ってきたり、作者の家に上がり込んできたりと、どうにも胡散くさい。編集部に問い合わせると「そんな人物は会社に存在しない」と告げられる。現実と虚構が入り交じり、不思議な雰囲気を醸し出している怪作だ。
インディペンデント誌の面白さは、作り手の喜びや感動が直に感じられるところにある。フェイクニュースが飛び交い、「ポスト・トゥルース(脱・真実)」「オルタナティブ・ファクト(もうひとつの事実)」がはびこる昨今、政治的権力や世間の風におもねらないインディペンデント誌は、今後ますます重要な位置を占めることだろう。気になるものがあれば早く入手しないと売り切れてしまうかもしれないので、購入はお早めに。
(文=平野遼)
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