サムすぎた『THE W』 女芸人は「ブス」「デブ」ネタばかりでつまらない?
10日に放送された『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)について、有吉弘行や「ナイツ」の塙宣之が苦言を呈し、話題を呼んでいる。「ブス」「デブ」ネタに固執する女芸人のネタの偏りやレベルの低さやネタの偏りが指摘されているが、17日には「馬鹿よ貴方は」の新道竜巳がこれに猛反論。女芸人をめぐって、議論が紛糾している。
今年の『女芸人No.1決定戦 THE W』(以下、『THE W』)では、阿佐ヶ谷姉妹、ニッチェ、ゆりやんレトリィバァ、横澤夏子のほか、あぁ~しらき、紺野ぶるまなど女芸人11組が本選に進んだ。優勝は、持ち前の「おばさんネタ」を披露した阿佐ヶ谷姉妹だった。
この『THE W』について、芸人各所からさまざまな意見があがっている。15日放送のラジオ番組『土曜ワイドラジオTOKYOナイツのちゃきちゃき大放送』(TBSラジオ系)では、エッセイストの能町みね子が、「率直に言って厳しい、面白くなかった」「みんなが知ってるような有名な面白い芸人さんは、ことごとく出てない」とバッサリ。これに「ナイツ」の塙宣之も同調し、「“女性のこと”をネタにする人が多すぎる」と指摘し、「女性の“彼氏がいなくて……”という内容はバラエティ番組のひな壇でやって欲しい」「ネタはネタで、ちゃんと作った方がいい」と、クギを刺した。
さらに有吉弘行も、16日放送に出演したラジオ番組『有吉弘行のSUNDAY NIGHT DREAMER』にて、『THE W』に言及している。優勝賞金1000万円については、「M-1グランプリの賞金1000万で、『THE W』の賞金1000万って、ちょっと釣り合ってないよ。賞金は100万にしなきゃだめだよ、マジで。来年からいい加減にしないと」と、苦言を呈した。阿佐ヶ谷姉妹の優勝については、「(阿佐ヶ谷姉妹は)面白いことは知ってるよ、前からね。それは知ってるけどね、もちろん」と述べつつ、「だけどほかにも、いろいろとね」と、言葉を濁しながらも不満を隠さなかった。
いずれも、『THE W』に出演者たちの芸の内容や完成度について、感心できなかったという主旨である。
たしかに放送でも、会場の笑いが全体的におとなしく、異様な雰囲気ではあった。SNSを見ても、「こんな静かすぎるお笑い番組ってある……?」「M1と違ってまったく笑えなかった」「身体的特徴ネタばっかで、どこで笑っていいかわかんなかった…」「女芸人つまんない」などと、視聴者のネガティブな意見が目立つ。
今年の『THE W』の視聴率は11.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)だった。ちなみに『M‐1』(テレビ朝日系)は18.8%、『キング・オブ・コント』(TBS系)は11.6%。ただ、『THE W』の最高視聴率はダウンタウン・松本人志が副音声で解説を入れるシーンだった。女芸人がそのネタで爆笑を誘ったり、注目を集めたりしたとは言いがたい。
有吉や塙が指摘した「芸の未熟さ」は、素人目にも明らかであり、「内容の偏り」、つまり「女芸人の定番ネタ」が目立ったことが寒さを際立たせていたことも事実ではないだろうか。ニッチェの江上がものすごい厚化粧のエステティシャンに扮したり、紺野ぶるまが中途半端な美人の自虐ネタに走ったり、合わせみそが交際経験のない女性がイケメンで妄想するネタを披露したり、といった具合だ。
ナイツ塙の「“女性のこと”をネタにする人が多すぎる」との指摘はもっともで、「ブス」「デブ」、「モテない」ネタに終始するようでは、それこそ芸がない。また、「女あるある」ネタ(=こういう女いる~、というネタ)も定番だが、他人をバカにしているだけではやはりウケない。そうしたテンプレで笑いを取ろうという姿勢自体が、弱いのだ。
M-1ファイナリストが女芸人への逆風に”待った”
だが、『THE W』を残念とする風潮に対して、M-1ファイナリストの「馬鹿よ貴方は」の新道竜巳が反論を繰り出した。新道は15日、「THE Wは出演者から嫌われている!?」という題でブログを更新しており、「男芸人からは「面白くなかったよ」と何人にも言われ、複雑な思いもしました。」「女芸人が参加するモチベーションになっていないのでは、という所です。」などと感想を記していた。新道は「女芸人研究家」としても活動しているため、思うところがあったのだろう。
さらに17日には、「能町みね子の発言について」というブログを更新。能町の「おもしろくなかった」という発言については、<新しい事を探しながらお笑いは常に進んでいるので、それが伝わらない事はあるし。大衆に届くまで時間がかかる場合があります。(略)続ける意味はあるし、土壌が固まるまで右往左往するのは仕方がない事です。>と切り替えした。
また、「みんなが知ってるような有名な面白い芸人が出てない」発言については、<この「みんなが知っている芸人」をほっしている時点でミーハー感が強く、スターを育てる意味がなさなくなるので、安易な発言ではあるかもしれません。>と、これも反論。さらに「女の人で区切る必要がない」という意見には、<まだまだ人数の少ない女芸人の活気を増やす意味でも、新しい賞レースのジャンルとしても必要はあるし、楽しみにしている人は沢山います。>と見解を示している。
翌18日には「有吉弘行の発言について」というブログを更新。有吉の「賞金1000万って、ちょっと釣り合ってないよ」という発言について、<面白さを競うという意味でM-1と比較しているのかもしれません、基準をM-1にするから上下が発生するのであって、THE WはTHE Wの価値観で競って欲しいです。(略)新しいものは叩かれやすいので引き続きさらなる飛躍を期待しTHE Wを1000万円で演出しつづけてほしいです。>と、さらなる持論を展開した。
さらに有吉の「女だけってのおかしいね、じゃ男芸人No.1決定戦もやらなきゃいけない」という意見については、<結果的に男性が多い芸人界なのは今も変わらないので男芸人No.1決定戦はあまり、物珍しくなく、演出上こちらこそやる意味がないかと思います。結果女芸人No.1決定戦のみの開催される現状は必然性があり、面白い賞レースではあります。>と反論。
向かって来る球に全て返すような勢いだが、それほど思い入れがあるのだろう。この日のブログは、<女芸人の人口がまだまだ少ないのでいつかこのような発言がでなくなるようなお笑い界になるよう心待ちにしております。>と、締めくくられている。
Aマッソ・加納「女芸人はデブとブスしか求められてない」
新道の見解はお笑い界の現状を端的に示したものであり、その業界内において「芸人=男」であり「女芸人」は量的には圧倒的に少ない。また、テレビバラエティとして「女芸人」が「ブス・デブ・モテない」ことを求められてきたこともたしかだろう。
思い出されるのは、今年2月の『ゴッドタン』(テレビ東京系)で、女芸人コンビ「Aマッソ」が漏らしていた悩みだ。
「Aマッソ」の加納愛子は、「女芸人はデブとブスしか求められてない」と言い、そのどちらでもない自分たちは視聴者にとって「見方わからへん」のだと自己分析。さらに、番組製作側からのアンケートでは「彼氏いますか?」「付き合った人数は何人?」といった内容ばかりを聞かれ、番組ゲストにイケメンが来たときは「キャー!」などと黄色いリアクションを求められる……と、女芸人ならではの苦悩を明かしていた。
これに対し、劇団ひとりが「そこまでやり方がわかってるなら、見た目を奇抜にするとかやってみたらいいんじゃない?」とアドバイスしたが、加納は「嫌っすね」と一蹴した。「女芸人だから」ではなく、「ネタの面白さをちゃんと評価されたい」「普通に売れたい」という彼女の思いは至極まっとうなものに思える。
Aマッソのコントには、「女芸人、賞レース勝たれへんねんで」「女芸人おもろなってる言われてるけど、あんなの嘘やぞ。テンプレート蔓延してるだけや!」といった批判的なセリフが織り交ぜられ、女芸人の「テンプレート」に迎合する気がないことは明らかだ。実力だけでのし上がってやるという気概にあふれている。
『THE W』をめぐって噴出した、「女芸人つまらない問題」。「ブス」「デブ」「モテない」などの自虐ネタがもはや笑えないことは明白だが、しかしそれを強要しているのはいったい誰なのか? 女芸人たちは見えない縄でぐるぐる巻きにされているとも言える。その縄をぶちぶちと引きちぎるか、あるいはそもそも縛られることを拒否した女芸人たちが台頭していくか。
いずれにせよ「女芸人のテンプレート」を破れるのは、女芸人しかいない。ここからの一年次第で、来年の『THE W』を「ちゃんと笑える大会」にすることもできるだろう。
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