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日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 聖地巡礼に人が来ない対馬の最果て感

『アンゴルモア 元寇合戦記』は面白かったけど……「聖地巡礼」で人なんか来てなさそうな対馬の最果て感

■バスがあるだけマシの観光客に厳しい島

 こうして降り立った厳原は、対馬の中心にあたる町である。だが、街には人の姿は少なかった。事前に聞いていた通り、島で目立つのは最近増えている韓国人観光客向けのハングルの案内。そう、歩いている島の外からやってきた人は、ほぼ韓国人ばかり。そもそも、博多からフェリーでやってきた乗客に旅行者然としていたのは、自分だけ。ほかは、出張らしきスーツ姿か作業着の人しかいなかったのだ。

とてつもなくレトロなバスターミナル。もう、ここが観光名所ってことでいいんじゃないか
自衛隊員と韓国人旅行者が入り交じる。やっぱり国境に来たなあという感じが味わえる

 とにかく、滞在中に観光客らしき日本人の姿を目にすることは、まったくなかった。むしろ、どこの店でも「何をしに対馬に?」と、日本なのに日本人観光客が珍しがられるのである。

フェリーターミナルから市街地まで、人に会うこともない。それくらいに人は少ない

 それは観光案内所でも同様だった。島の地図や名所への行き方を尋ねようと入ってみたら、案内のブースに立っていたのは若い韓国人の女性だった。こちらが、日本語で尋ねると、何か韓国語で話してから、日本人を呼びに行った。

 筆者は旅先では必ず、地域の情報を得るために、まず観光案内所に立ち寄る。旅行者にとっては、はじめて話す現地の人のはずだが、対応はさまざま。親切にあちこち名所を教えてくれる人もいれば、冷たく最低限のことを教えて切り上げようとする人も。

 今回は、後者に近かった。

「和多都美神社に行きたいんですが……」

 そう聞くと「バス、あんまりないんですよね」と、時刻表をくれた。それに目を通していると、目に入ったのが今年アニメになった『アンゴルモア 元寇合戦記』のパンフレット。

アニメを観た人にはわかると思うけど、このポスターに出てるキャラはほぼ全滅します
休日はバスも来るそうだが、平日だったためにバス停から徒歩30分。その価値のある荘厳な神社だ

 ここまで「聖地巡礼」に訪れるファンもいるのかと尋ねると「こないだは、ツアーも来ましたけど……」と、なぜか言葉少なげである。

 その理由は、それから島の人と話す中で、次第にわかった。半数の人はそんなアニメがあるのを知っている程度。降り立ってみれば決して大きくはない島だけど、そもそも、そんなアニメがあって観光PRをしようとしている人がいることすら知らない人も多かった(観光施設の窓口でも!)。

 今年、やはりアニメ化された『ゴールデンカムイ』は、関連で実施されたスタンプラリーが、北海道の広さを感じさせるものとして話題になった。『アンゴルモア 元寇合戦記』の聖地を巡ろうとすれば、それに比べると面積的には広くはない。ただ、島を訪れた旅行者が「どうやって行けばよいのだ?」と、頭を抱えるところばかり。

 アニメに出てきた金田城は、バスを乗り継げばなんとか行けるだけ、まだよいほう。最初の合戦が描かれた佐須なんて、山を越えた島の反対側なのだが、そもそも公共交通機関は存在しない。

豊玉姫命の墓所とも伝わる磐座。陰陽の意匠があるように見えるけど、わかる?

 つまり「聖地巡礼」に限らずとも、観光はレンタカーが大前提。でも、幹線道路すらバスがすれ違いに苦慮するような狭さ。よほど運転に自信がなければ、事故を起こすことになるだろう。そんな島ゆえに「聖地巡礼」スポット選びにも苦悩したのか。なぜか、元寇とは関係ない清水山城(文禄・慶長の役に際してつくられた城)まで『アンゴルモア 元寇合戦記』の聖地として記載されているという状況。

 確かに、元寇の時にそのあたりで戦ったかも知れないし、厳原から歩いていける山城ではある。「アニメ関係ないけど苦渋の選択」と、いったところか。

 観光案内所に併設された食堂で、特産品の対州蕎麦を丁寧に解説してくれた人に、貼ってあった『アンゴルモア 元寇合戦記』のポスターを指さして「アニメの影響で来訪者が増えたりしてますか?」と尋ねると「あははは~」と苦笑して、はぐらかされた。それが、地域の住民のもっとも正直な反応といえるだろう。

 やはりアニメの「聖地巡礼」で地域が活性化していくというのは、限られた成功例が注目されているに過ぎないと、改めて感じた。

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