ゴミを宝物に変える夢のドキュメンタリー映画! 人生をアップサイクルする『旅するダンボール』
#映画 #パンドラ映画館
島津氏は海外でも財布づくりのワークショップを開き、惜しみなくそのノウハウを多くの人たちに広めている。まるで折り紙の鶴を折るように段ボールで財布を作り出す島津氏の手つきを見て、外国人たちは驚き、そして島津氏にアシストされて完成させた自前の財布を手にして大喜びする。段ボールでつくられた財布はきっと大切に使われることだろう。そんな一期一会な出逢いを、決して英語が堪能ではない段ボールアーティストは心から楽しんでいることをカメラは伝える。
段ボールをめぐるこの風変わりなドキュメンタリーは後半、意外なことに感動のドラマが待っている。国内の青果市場を物色していた島津氏は「徳之島フレッシュPOTATO」という段ボールと出逢ってしまった。手描きのレタリングとジャガイモを擬人化したユルキャラに、何とも言えない味わいがある。島津氏はこの段ボールに激しい愛情を感じ、どうしようもなくこの段ボールを作った人に会いたくなってしまう。
ジャガイモの生産地である鹿児島県徳之島に向かうつもりだった島津氏だが、調べてみると長崎県に出荷され、諫早市の選別工場で段ボールに詰められていることが分かった。長崎県にまで飛んだ島津氏は、この段ボールを作ったデザイナーは熊本県在住なことを知る。旅を続ける中でいろんな人たちと知り合い、さらに段ボール工場を見学した島津氏は、いよいよ憧れの段ボールデザイナーと対面することに。詳細はドキュメンタリー映画を観てもらいたいのだが、それは段ボールを愛する者同士の幸せな邂逅の瞬間となった。島津氏は「段ボールは温かい」という言葉を何度か口にするが、段ボールを作り、愛する人たちもまた同じように温かかったのである。
島津氏は日常生活に溢れた段ボールという鉱脈を見つけ、段ボールアーティストとして世界的に活躍することになった。『旅するダンボール』はそんな島津氏と出逢うことで、多くの人たちが段ボール愛に目覚めていく物語だ。本作を撮った岡島龍介監督もその一人らしい。カメラを持って島津氏を追い掛けるうちに、段ボールと島津氏の魅力に気づいていった。そして当の島津氏自身も、広がっていく段ボール愛に包まれていく。
映画を観ながら、ふと考える。もしかしたら段ボール以外にも、意外な鉱脈が日常生活の中に眠っているのかもしれないと。世間的には無価値なものを、世界にひとつしかない宝物に変えてしまう。そんな夢のようなドキュメンター映画は、現在日本各地を旅している真っ最中だ。
(文=長野辰次)
『旅するダンボール』
プロデューサー/汐巻裕子 監督・編集/岡島龍介 撮影/岡島龍介、サム・K・矢野 音楽/吉田大致 VFX/松元遼
出演/島津冬樹 ナレーション/マイケル・キダ
配給/ピクチャーズデプト 12月7日よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開中
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