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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.510

ゴミを宝物に変える夢のドキュメンタリー映画! 人生をアップサイクルする『旅するダンボール』

段ボールを物色中の“段ボールアーティスト”島津冬樹氏。段ボールを求めて、これまで世界27か国を旅してきた。

 路上に捨てられた廃棄物が、価値の高いものに生まれ変わる。リサイクルやリユースのさらに上をいく“アップサイクル”という概念になるらしい。ドキュメンタリー映画『旅するダンボール』の主人公・島津冬樹氏は世界各国を旅して、様々な段ボールを拾い集めている。段ボールアーティストと呼ばれる島津氏の手によって、使い古しの段ボールは財布、名刺入れ、パスケースなどに変身していく。段ボールを集めては作り、さらにワークショップを開いて作り方を広める一連のプロジェクトは「Carton」と名付けられ、「Carton」の製品は世界各地で静かな人気を集めている。

 都内乃木坂にある国立新美術館のスーベニアフロアへ行ってみた。海外の有名アーティストのグッズと共に、島津氏が作った段ボール製の長財布もオシャレにディスプレイされている。段ボールに印刷されたパッケージデザインがそのまま財布のアクセントとなっており、チープさと不思議な温かみを感じさせる。値段は1万円と安くはないが、海外からのツーリストが東京のお土産によく買って帰るそうだ。無価値の段ボールをブランド品に変えてしまうという発想が面白い。映画『旅するダンボール』は、段ボールに魅了された島津氏のユニークな人柄を映し出していく。

海外でワークショップを開いている島津氏。決して語学は堪能ではないが、フランクな人柄で誰とでも仲良くなってしまう。

 1987年神奈川県藤沢市で島津氏は生まれた。子どもの頃から収集癖があり、近くの海岸で拾ってきた貝殻で標本箱を自作した。キノコにも興味を持ち、手描きのキノコ図鑑も編纂している。モノを集めるという行為を楽しむのと同時に、標本箱や図鑑を作ることでその魅力を他の人と共有することにも喜びを見出していた。子どもの頃のそんな体験が、段ボールアーティストとしての原点となっているようだ。

 多摩美術大学に進んだ島津氏は、学園祭のフリーマーケットで初めて段ボール製の手づくり財布を出品。定価500円の財布はすぐに売り切れた。段ボール製財布のユニークさは、就職活動でも効果を発揮する。大手広告代理店の役員面接日を間違えて大遅刻した島津氏だが、役員から気に入られてアートディレクターとして入社することになる。段ボール製財布と同様に、彼自身の気取らない純朴な人柄も、人を惹き付ける独特な魅力があるようだ。

 超難関の人気企業にクリエイティブ職で就職できたにもかかわらず、島津氏はわずか3年で退職してしまう。その退職理由がまた彼らしい。「段ボールを集め、財布を作る時間がないから」。自分がやりたいことをやる。そんなシンプルさが段ボールアーティスト・島津冬樹のモットーだ。アウトドア用品のメーカーとコラボした野外イベントでは、段ボール製グッズと物々交換することで食べ物をゲットする。うれしそうな島津氏の顔をカメラはクローズアップする。段ボールアーティストは、貨幣経済のシステムにも束縛されずに生きている。彼は根っからの自由人だ。そんな彼がお金を収める財布づくりに情熱を注いでいるのもおかしい。矛盾さえも包み込んでしまう、大らかさが段ボールと段ボールアーティストにはある。

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