元メイドで女探偵、そんな属性を詰め込んでもダメか? ジャクリーン・ウィンスピア『夜明けのメイジー』
#雑誌 #出版 #昼間たかしの「100人にしかわからない本千冊」
柏書房というのは、歴史書を多く出している老舗の出版社。
そんな出版社が手がけたのがジョゼフ・ミッチェルの作品集。2017年2月に出版された『マクソーリーの素敵な酒場』から始まった作品集は、18年12月の『ジョー・グールドの秘密』まで全4冊で完結した。
ジョゼフ・ミッチェルという人物は、これまでほとんど知られていなかった書き手である。1908年生まれで96年に没しているから、すでにかなり過去の人である。しかも、精力的に活動したのは38年に『ニューヨーカー』のスタッフライターになってから10年、20年足らずのこと。
その作品は、日本ではほとんど知られてこなかった。本のオビでは、作家・常盤新平が絶賛したことを大きく記している。その絶賛は本物で、ミッチェルが死んだ96年に常盤は、『オールド・ミスター・フラッド』を訳して翔泳社から上梓している。
その常盤も2013年に没しているから、すでに5年。けっこう、この損失は大きいものである。
全力で、まだ日本語訳されていないアメリカのノンフィクションや小説。そして、名編集者を紹介し続けたのが、常盤新平という人物の大きな功績である。
そんな人物がいなくなってしまったもので、ネットでリアルタイムに情報は入手できるのに、文化の断絶は大きくなってしまった。以前に、この連載で取り上げたゲイ・タリーズの『A Writer’s Life』を常盤は雑誌コラムでも絶賛していたのだが、その絶賛が広まらぬうちに没してしまったから、そもそもそんな本があるという人も少ないし、とても日本語訳など出版されるような状況ではない(注:筆者は、できない英語でようやく3分の1くらい読んだのだが、もし「読みました」という人がいたら、絡んでください)。
この「まだ、日本語にはなっていないんですけど、こんな面白い本があるんですよ~」と、紹介するような識者が減ってしまった状況というのは、けっこうヤバイと思う。いや、まず日本語の本を読むだけでも、一生のうちに読める本の数は年間発行点数の一割にも満たないと思うのだが、これに外国語の本を加えると、本当に読める本というものは少ない。
それに、翻訳されたシリーズものでも中断は、当たり前にある。
ふと先日、05年にハヤカワ・ミステリ文庫から出たジャクリーン・ウィンスピアの『夜明けのメイジー』という作品を思い出した。
これは、新米の女探偵がヒロインなのだが、このヒロイン、探偵にして元メイドという、なかなかの属性。そして、舞台は第一次世界大戦後のロンドンと、いろいろ刺激してくれる要素がある。さまざまな賞も得ている作品なので、これは続きとか作者のほかの作品が翻訳されていないものかと思ったら、ない。でも、ないのは日本語訳だけの様子。そこで検索して見ると、英語圏では人気シリーズになっているそうで、昨年まで16作品が刊行されている。
ようは、売れなかったのか邦訳版の刊行は続かなかったようだ。また、文化の断絶の状況に気づいた。
で、話そうと思っていた、ミッチェルについては、次回ということで。
(文=昼間たかし)
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