トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 『ドキュメンタル』の“ゆりやんショック”
【wezzy】

『ドキュメンタル』の“ゆりやんショック”――女性芸人の局部露出は笑えるか否か

 11月30日から12月7日にかけて、ネット番組『HITOSHI MATSUMOTO Presents ドキュメンタル』(Amazon Prime Video)のシーズン6が配信された。ダウンタウン・松本人志がホストをつとめる同番組は、召集を受けた10人の芸人たちが密室に閉じ込められ、12時間をともにしながらお互いに笑わせ合う。最後まで笑わなかったものが賞金1000万円を受け取るというお笑いサバイバルゲームだ。

 シーズン6に参加した10人は、FUJIWARA・藤本敏史、陣内智則、スリムクラブ・真栄田賢、千鳥・大悟、村上ショージ、ジミー大西のほか、森三中・黒沢かずこ、ハリセンボン・近藤春菜、友近、ゆりやんレトリィバァ。これまでのシーズンは、女性芸人不在、もしくは単独参加ばかりだったので、4人の実力派女芸人が終結したシーズン6は、異色作といえるだろう。ホストの松本人志も、「今回は女芸人が多め」などと発言しており、女芸人を意図的に投入していることは明白だ。

 一方で、松本はドキュメンタルについて「お年寄りとか女子供が見て、そこまでどうなんだろうっていうのはありますね。本当に好きな人はのめりこむように見てくれるんじゃないかなっていう、そういう意味ではこれぐらいのターゲットを絞り込む感じで」と説明している。女芸人は、はなから部外者として立ち向かうことを強いられているのだ。

 これまでも、男芸人たちが局部を露出したり、尻の穴に異物を挿入して飛ばしたりと、かなりきわどい芸の応酬が繰り広げられてきた。視聴者からはこうした展開が「下品すぎる」と批判されるばかりか、シーズン4では森三中・黒沢に対するセクハラではないかと物議を醸したこともあった。いずれにせよ、ドキュメンタルにおいては、体を張った下ネタが場の空気を支配しており、女芸人たちが与しにくい土壌があることは明らかだ。

 筆者はイチお笑いファンとして、ドキュメンタルでは女芸人たちの持ち味が出にくいのではないかと危惧し、シーズン6の展開を心配していた。しかし同時に、4人の女芸人たちが実力を見せつけ、安易な下ネタに走りがちな男芸人にひと泡吹かせる……そんな展開も期待していたのだ。

 しかし案の定、シーズン6でも序盤から、村上ジョージが乳首をいじり、ジミー大西が局部をさらし、肛門にうずらの卵を入れて飛ばす……などの下ネタが横行する。女芸人たちは当初、男芸人たちの独壇場を遠巻きに見ているだけだった。しかし、その空気は逆に女芸人たちの結束感を強めていったようだ。

結束する4人の女芸人たち(『ドキュメンタル』公式Twitterアカウントより) チーム制ではないのに、自然と男vs女の笑わせ対決のような構図が出来上がっていた。女芸人たちが一致団結して笑いを取りにいく――特に、友近とゆりやんの小芝居は絶品で、男芸人たちを次々と笑わせていく様はじつに痛快だった。裸にならなくても、局部を露出しなくても、しっかりと笑いを取れる女芸人たちの実力が、たしかに証明されていたのだ。

 

芸人も視聴者も度肝を抜かれた“ゆりやん乳首ショック”
 しかし、ゲーム後半からは事態が一変する。突如、ゆりやんが露出度の高い星条旗柄の水着姿で登場し、ほかの芸人たちを面食らわせた。さらに水着がズレてしまい、ゆりやんの右乳首が露出(※動画では編集によって隠されている)。どのような反応が正解かわからなかったのだろう、場は静まり、さすがの陣内や藤原もイジるどころか直視できずにいた。

 続けて、ゆりやんの舞踊に合わせて友近が音頭を取る即興ネタが披露されたが、ゆりやんが舞うたびに水着はズレて、右乳首がむき出しになってしまう。ゆりやんが着替えるまで、片乳首は見え隠れする情況にあった。

ゆりやんの乳首が……(『ドキュメンタル』公式Twitterアカウントより) ゆりやんの一幕が、男芸人たちの下ネタ熱に火を点けたことはもちろんだが、女芸人たちも次々と露出度の高い衣装に着替えて下ネタに走り出した。たとえば、テニスウエアでスコートを履いた友近が、真栄田が露出させた睾丸をつま先でいじり倒し、「50-0(フィフティー・ラブ)!」などとゲームカウントするくだりまで飛び出している。

 そして、ゆりやんの快進撃は留まるところを知らなかった。タイムアップが差し迫り、窮地に追い込まれた芸人たちが焦り出すなか―――髷を結い、さらしを巻き、力士に扮したゆりやんがおもむろに登場したのだ。上半身は裸であり、両の乳首は丸出しだ。

 この瞬間、ゆりやんの暴走に全員が度肝を抜かれたが、松本人志も舌を巻き、「はい、もうコイツの優勝!」と宣言。「普通に乳出しとるがな!」とツッコミながら大爆笑。全てを圧倒する両乳首が決め手となり、ゆりやんの優勝でゲームは幕を閉じるのだった。

 今回の戦いについて、松本が「女芸人舐めんなよってのが伝わってきた」と総括したとおり、ゆりやん、そして友近の活躍はとにかくすごかった。SNSの感想をさらってみると、「ゆりやんの芸人魂がまじですごすぎる」「正直あそこまで突き抜ける事が出来るとは思ってもみなかった!」「ゆりやん、尊敬してます!」と、ゆりやんの健闘を讃える声が続出している。

「男女が互いに裸になること=平等」なのか?
 しかし一方で、有料ストリーミング番組内とはいえ、また編集で処理されているとはいえ、セクシービデオではない動画において女性の乳首が公然と露出されたことに驚き、ショックを受けたという声も多い。ゆりやんのファンであり、贔屓目に見ていた筆者も、そのひとりだ。

 前述したとおり、ドキュメンタルでは男芸人による体を張った下ネタが横行している。男の下半身は、なかば強力な“武器”であるともいえるだろう。だからこそ女芸人たちはホモソーシャル的な笑いに与することができず、臍を噛んできた。イチ視聴者としても、もどかしさにやきもきしていたほどだ。

 しかし今回、ゆりやんは乳首を露出させるという手段を用いて、(文字通り)男根が支配するドキュメンタルの空間に風穴を開けた。さらに優勝まで勝ち取ったことで(ちなみに、初の女性優勝者だ)、男芸人たちに一矢報いたことになるだろう。筆者も、ゆりやんの優勝、それ自体にはカタルシスを覚えたが――ひるがえせば、女芸人が男と張り合うため、勝つためには、乳首を露出させるしかない――という、ひとつの解がここに示されたことになる。

 

 断っておくが、ゆりやんの行為を責める気はないし、「乳首出すな!」と強要もしない。もちろん、女としての尊厳がうんぬんなどと、お笑い部外者の一般論を差し挟む気もまったくない。ゆりやんが芸人として、並々ならぬ覚悟をもってゲームに挑み、自らの意思で乳首を晒したであろうことは、放送を見れば明白だ。懸念しているのは、ゆりやんの優勝によってドキュメンタルの下ネタがいっそうエスカレートしてしまうことだ。

 これから、男芸人たちは「ゆりやんの乳首が優勝」という先例に対し、より過激な下ネタで対抗するだろうし、そうなれば女芸人たちも流れに迎合するよりほかないだろう。ドキュメンタルを通して笑いのシーンにおける性差を目の当たりにし不満を抱いてはいたが、「男女が互いに裸になること=平等」とは、とても思えない。

 また、シーズン4では森山中・黒沢に対するセクハラが問題視されていたのだから、場合によっては、女から男へのセクハラも指摘されて然るべきだろう。いずれにせよ、ドキュメンタルの笑いが「双方の性差を振りかざすこと」に硬直化してしまうのは、芸人たちにとっても、もちろん視聴者としても喜ばしいことではないはずだ。

 森三中といえば、大島美幸は過去、ダウンタウンの番組でたびたび裸になってきた。やはりこれも編集で処理されてはいるが、大島の場合は乳首のみならず下半身まで脱いでいた。しかしあくまでも「大島美幸だから許容される」、つまり例外のような扱いだったように思う。ちなみに大島の夫である鈴木おさむは、全裸で笑いを取った妻を絶賛している。

 おりしも12月10日に女芸人だけのコンテスト番組『女芸人No.1決定戦 THE W』(日本テレビ系)がおこなわれ、阿佐ヶ谷姉妹が優勝した。しかし全体的に、笑いがおとなしい印象は否めない大会だった。

 だが一方で、今回のドキュメンタルは「女芸人はおもしろくない」などという流言を覆すに足る内容であり、とりわけ女芸人たちのネタが非常に面白かった。しかし、いつまでも下ネタに終始していては視聴者のマンネリも招くだろう。

 女芸人も乳首を出し、下ネタに走った。ドキュメンタルは岐路を迎えている。さらに過激化するのか、それとも軌道を変更して別の笑いを模索していくのか―――次回のシーズン7は、来春の配信が予定されている。

(今いくわ)

最終更新:2018/12/13 07:15
ページ上部へ戻る

配給映画