ラップとフォークを突き詰めた2人が見つけた「KESHIKI」~5lack×前野健太対談【後編】
#インタビュー
■5lackの声はすごく音楽的
前野 5lackさんの歌詞は、聴き手に向かっていることが多いじゃない?
5lack すべての歌詞に対して一概に言えることじゃないけど、真面目に頑張って生きてる人を鼓舞する言葉もありますよ。あと、聴いてる人を浮かれた気分にさせちゃおう、みたいな気持ちで作った曲もあるし。
前野 固有名詞もよく出てくるよね。5lackさんの曲に影響されて、Dickiesのズボン買っちゃったもん(笑)。固有名詞に魔法をかけるのがうまい。
5lack Dickiesに関しては、まさにそういう意図で書いたんですよ。VANSのスニーカーと、ドンキで買ったDickiesを履いて。「これが俺のユニフォームだぜ」みたいな。そういう気持ちにさせるBGMを作りたかったんです。俺、人を調子に乗らせるのが好きなんですよ。失敗させるためじゃなくて、ポジティヴにするためにおだてるというか。
前野 「進針」には「Young Brother」って言葉があったけど、あれは具体的な誰かをイメージして書いたの? リスナーとか?
5lack あの部分は、同業者に向けて言ってますね。自分言うのもアレですけど、俺はヒップホップの中では、まあまあいい感じでやれてると思うんです。けど、前野さんみたいなミュージシャンたちの中に入ると、俺の音楽的技量なんて下の上くらいのもんなんですよ。生バンドと一緒にやってるラッパーもたくさんいるけど、それは「ラッパーがただバンドと一緒にやってる」という以上でも以下でもない。ほとんどの場合、ラッパーはバンドの技量に追いついてない。たぶんそういうので成立してるラッパーって、日本では3人くらいしかいないと思う。
前野 逆に、その3人が気になるよ(笑)。でも、それは全然知らなかったな。5lackさんが対談の最初のほうで「俺の音楽について、いろいろ指摘されちゃいそう」って言ったのは、そういう思いがあったからなのね。
5lack そうですね。アメリカには、バンドとやってるラッパーもたくさんいるんですよ。でも、そういう人たちは単純に音楽的な技量が高い。
前野 僕にはヒップホップシーンのことやラップのテクニック的なことはわからないけど、5lackさんの声はすごく音楽的だと思うな。声に旨味が内包されてるんだ。京都で5lackさんのライヴを観た時、「日本語が喜んでる!」って感じたんですよ。狭苦しい場所に収まらないで、自由になってた。正直、負けたと思った。でもそれは同時に、僕にとっての新しいスタート地点でもあったんですよ。だからすごくうれしくもあったんです。今度、アコギ1本で僕がラップしてみようかなって考えてみたりさ(笑)。
5lack 俺はラップに音程やメロディをつけて、音楽っぽく響かせたいと思ってたんです。そこでいろいろ工夫はしました。単語を小節の最後にぴったりはめるんじゃなくて、あえて次の小節まで引っぱっちゃったり。日本語の「~である」に英語の「R(アール)」って音を入れたり。ラップを音に近づけていきたかったんですよ。今回のアルバムでは、それがだんだんなじんできた感覚はありますね。むしろ自分的には、ボブ・ディランとか昔のブルースの歌い方に近い。もはや、そういう感覚になってますね。
――前野さんはこれまで日本語の意味を追求した歌を作ってきたけど、徐々に言葉の音やリズムを意識するようになった。一方で5lackさんはラップをしゃべりから音楽に近づける作業の中で、前野さんのルーツであるフォークやブルースに近づいていった、と。
前野 じゃあ、今度一緒にライヴやりましょうよ。僕がアコギ伴奏とラップで、5lackさんは歌という編成で(笑)。
5lack 俺がもっと頑張んないと、マエケンさんに全部持ってかれちゃいますよ(笑)。
(取材・文=宮崎敬太)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事