ラップとフォークを突き詰めた2人が見つけた「KESHIKI」~5lack×前野健太対談【後編】
#インタビュー
■変わり続けることが俺の普通
前野 そもそも『KESHIKI』ってタイトルは、どういう意味なの?
5lack 最近、いろんな人から「変わったね」って言われるんですよ。でも、俺自身は昔から毎日変わり続けているから、そんなの最近に限った話ではないし、変わり続けることが俺の普通なんです。言ってることも昔から全然変わってないし。つまり変わってるのは俺じゃなくて、周りの景色だけっていう。タイトルには、そんな意味があります。
前野 変化に対しては、なぜか否定的な意見が多いよね。
5lack 「変わったね」って、なぜかネガティヴな場面で使われることが多いですからね。俺は、自分が進化することを否定したくない。
前野 アルバムも、そういうことを意識して作ったの?
5lack いや、俺は昔からテーマを決めてアルバムを作るのではなく、毎日生活している中で感じたことを曲にしているだけなんです。だから、曲は日記に近い。アルバムはその集合体というだけですね。
前野 『KESHIKI』というアルバムには、日本的な感覚があると思うな。それは八百万の神は自然に宿るという考え方。僕の『サクラ』というアルバムは山がテーマの曲「山に囲まれても」で始まって、海がテーマの「防波堤」で終わるんです。意識して作ったわけじゃないけど、結果としてこのアルバムは山川草木を表現してたのかなって。そういう部分でも、僕と5lackさんの感覚は近いように思える。
■「ハハッ」と笑う5lackの引き際のうまさはズルい
――SNSが発達して情報供給過多になった現代で、ミュージシャンが音楽を作ることにどんな意味があると思いますか?
5lack もしもミュージシャンが音楽を作ることに意味があるのだとしたら、それは同時に意味のないものでもあると思うんです。ただの歯車というか。つまり、一義的な側面から、物事の本質はとらえられない。
前野 5lackさんは、引いた視点をうまく表現するよね。そういうことって、頭ではわかってても言葉では表現できないものですよ。もうね、ズルい(笑)。5lackさんはよくアルバムで何か言ってから「ハハッ」って笑うじゃない? あのクールな引き際は正直悔しい。
5lack 俺、めっちゃ客観的なんですよ。例えば、みんなと遊んでてめっちゃ楽しくなるんだけど、同時に「俺、めっちゃ楽しんでる」と客観視してる自分もいて。だから、自分自身がただ楽しめるものを作ることが本当に難しいんです。
前野 あの「ハハッ」の温度感は絶妙だと思うな。自分に対して茶々を入れてるのに、カッコいいっていう。
5lack 「自分が正しい」って言い切れる人はすごい。俺は何もかもに疑いを持ってるから、絶対無理。むしろ、そうなりたいもんです。俺、自分が歌った曲も、正しいとは思ってないですよ。
――ミュージシャンとしては、特にステージ上ではナルシスティックでエモーショナルになったほうが、観客は喜ぶんじゃないですか?
5lack お客さんは、おそらくそうでしょうね。俺は自分に陶酔しきっちゃってる人のライヴを観ると、むしろ希望を感じる。「こんな人がまだいるんだ!」みたいな。俺も昔は「俺がナンバー1だ」って雰囲気を出そうしたけど、結局うまくいかなかった。だから最近は、結構作り込んだ、スキのないライヴをやっちゃいます。本当は、もっとラフでルーズなライヴをやってみたい気持ちもあるんですけどね。
前野 それはわかるな。だって、僕もライヴでは必ず「陶酔コーナー」を作るもんね。「人間はここまで歌に入り込める動物なんです」っていうコーナー。ライヴの構成的には絶対欲しいし。僕は5lackさんの平熱感に憧れるな。昔から、しゃべり声で歌う人が大好きなんですよ。
5lack 「こんなやつがいたらいいよね」みたいな感覚でやってる部分もありますよ、そこは。
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