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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 川端康成の童貞力に唖然

あゝ女と舞踏がしたい。童貞にまつわる作品を集めたアンソロジー『吾輩は童貞(まだ)である』

吾輩は童貞(まだ)である』(キノブックス)

 いきなり私事と下ネタで恐縮であるが、筆者の後輩にSくんという好い童貞がいる。24歳になるSくんは、女性に対して頑なで、やたらと理想が高く、車寅次郎のように惚れっぽい。好きな女性に捧げたいと悶え苦しみ、空回りしているさまは、実に滑稽で、バカバカしく、愛おしい。その姿に、かつての自分を見るからだろう。彼を風俗に連れていくというのが筆者の夢であるのだが、その夢はいまだ果たされていない。

 自身の童貞が長かったためか、童貞や童貞作品に強く魅かれてしまう。『吾輩は童貞(まだ)である』(キノブックス)は、童貞にまつわる小説・エッセイ・短歌・名言などを集めた童貞作品アンソロジーだ。収録された作家は、森鴎外、武者小路実篤、室生犀星、川端康成、三島由紀夫と、国語の教科書のような豪華なラインナップ。存命の作家では、筒井康隆、谷川俊太郎、小谷野敦、みうらじゅんなどが名を連ね、バラエティ豊かで読みごたえのある一冊となっている。

 童貞ものとなると、重厚な文体で描かれた文豪の作品も実にバカバカしい。

「己は知らざる人であったのが、今日知る人になったのである」――森鴎外『青年(抄)』

「あゝ 女と舞踏(たんちぇん)がしたい」――武者小路実篤『お目出たき人(抄)』

「自分たちのお父さんやお母さんがそんなことしているわけがない」――中島らも『性の地動説』

「俺は生涯女はただ一人だ」――小谷野敦『童貞放浪記』

「俺に童貞を捨てさせろ!」――中谷孝雄『学生騒動(梶井基次郎)』

「かく言う私も、童貞を失ったのがすこぶるおそく、これが人生の一大痛恨事になっている」――三島由紀夫「童貞は一刻も早く捨てろ」

「ああ! 月夜! お前にこの感情を上げよう!」―― 川端康成『月』

 武者小路実篤の「あゝ 女と舞踏(たんちぇん)がしたい」も切実でほほえましいが、川端康成の「ああ月夜!」も、ロマンティックな調子がより一層マヌケで、失笑を禁じ得ない。『月』は童貞の空想を優美な文体で描いた掌編だが、こんなにバカバカしいセリフを堂々と描けるところにノーベル賞作家のすごさを感じる。川端康成の童貞力に唖然とする一作だ。

 諸作家の童貞譚にクスクス笑っていたところ、巻末のバカリズムの言葉が突き刺さった。

「お前が童貞を捨てても、童貞はお前を捨てたとは思ってないからな」――バカリズムのオールナイトニッポンGOLD 『エロリズム論』

 童貞ものを読んで、妙に懐かしい気持ちに誘われるのは、まだ童貞に捨てられていないからなのか。童貞の諸氏、童貞に捨てられていない諸氏にぜひ読んでほしい一冊だ。自身の中の童貞を確かめ、熱い気持ちのまま、童貞の後輩と風俗に行きたいと思う。

(文=平野遼)

【収録作品(掲載順、敬称略)】

筒井康隆『現代語裏辞典』、平山夢明『どんな女のオッパイでも、好きな時に好きなだけ自由に揉む方法』、中島らも『性の地動説』、原田宗典『夜を走るエッチ約一名』、武者小路実篤『お目出たき人(抄)』、谷川俊太郎『なんでもおまんこ』、森鴎外『青年(抄)』、小谷野敦『童貞放浪記』、室生犀星『童貞』、中谷孝雄『学生騒動(梶井基次郎)』、結城昌治『童貞』、開高健 『耳の物語(抄)』、車谷長吉『贋世捨人(抄)』、穂村弘『運命の分岐点』、しんくわ 寺井龍哉(ともに短歌)、みうらじゅん『東京アパートメントブルース』、横尾忠則『コブナ少年(抄)』、澁澤龍彦『体験嫌い』、三島由紀夫『童貞は一刻も早く捨てろ』、川端康成『月』、バカリズムのオールナイトニッポンGOLD 『エロリズム論』

最終更新:2018/12/07 21:00
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