BTS“原爆騒動”やTWICE“慰安婦騒動”から見えてくる、日韓有名人の「愛国マーケティング」を問う
BTS(防弾少年団)の“きのこ雲Tシャツ事件”が、大きな波紋を呼んでいる。さらに最近では、騒動がTWICEの“慰安婦Tシャツ問題”にまで飛び火。韓国のアイドルに対する憎悪ともいうべき感情が、メディアやSNSを通じて日本国内で拡散している。一方、韓国のメディア(右も左も含めた複数のメディア)も、反論に血眼だ。自国スターの正当性を証明するためか、あるいはおもしろ半分なのか定かではないが、続報の報道に熱を上げている。
BTSのメンバーが、“きのこ雲Tシャツ”を着た背景やいきさつは、さまざまなメディアですでに報じられているので割愛したい。端的に結論づけるならば、BTSのメンバーおよび所属事務所、マネージャー、またTシャツのデザイナーを含めて、関係者がひとり残らず全員「無知」だったの一言に尽きる。
韓国人にとって、1945年の日本の敗戦はすなわち「植民地からの解放」を意味する。Tシャツをデザインしたデザイナーは愛国者のふりをしたくて、その解放(=終戦)をもたらした象徴として、原爆のイメージをTシャツにプリントしたのだろう。
TWICE公式ホームページより ただ、米国による人類史上最悪の災禍ともいうべき原爆の投下は、罪のない多くの日本人ばかりか、多くの朝鮮半島出身者の命も奪った。双方の被害者の家族や親族は、その歴史がもたらした傷を癒やすため、また過去に打ち勝つために、70年以上が経過した現在でも、地道な反核兵器活動を続けている。
BTS関係者らは、今も連綿と続くそのような歴史や人の痛みを知らず、想像もできず、つまりは「無知」であるにもかかわらず、「おれ、歴史をよく知ってる愛国者だろ?」といった“ノリ”でTシャツを制作・着用したことは想像に難くない。本当に国や民族を愛し歴史を知っているのであれば、原爆投下が人類全体に招いた悲劇をより深く理解しているはずだし、安易にあのようなTシャツを着用などしなかったはずだ。
韓国の犯した“罪”にもまた目を向けてこそ
従軍慰安婦問題もまたしかりである。1990年代に被害者が名乗り出るまで、慰安婦問題は歴史の闇に葬られてきた。そして、その葬る作業には、日本政府だけでなく、韓国政府も加担してきたという歴史的事実がある。慰安婦Tシャツを着て日本の歴史認識が間違っていると非難したり、慰安婦被害者の方々のために支援金を集めることは悪いことではないだろう。個人の主張や活動として存分にやればいい。しかし、自国の政府の責任を追及しないのであればフェアではないだろう。
また韓国軍は、朝鮮戦争時やベトナム戦争時に、多くの女性たちをレイプしたり、従軍慰安婦として慰みものにしてきたという歴史的事実も明らかになっている。それら「韓国軍慰安婦問題」を勇気を持って告発した韓国の女性記者に直接話を聞いたこともあるが、元ベトナム派兵軍人団体に襲撃され、自国に住めなくなってさえ、今なお問題の解決に向けて戦い続けているのだという。
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自国・他国を含めた戦争犯罪に対して非難の声を上げるのであれば説得力もあろうが、都合よく、自分たちのこうむった痛み(正確には、韓国アイドル自身は被害の当事者ではないだろう)だけに「目を向けなければならない」と主張することは、臆病なことであり、偽善以外の何ものでもない。
「韓国では、竹島や慰安婦問題、また植民地など日本との歴史問題に関して発言する芸能人は、世間から『偉い』『考えを持っている』ともてはやされる傾向があります。そういう芸能人たちは、愛国テイナーとも呼ばれていて、2010年代前半から増え続けていますね」(韓国の芸能事情に詳しい通訳関係者)
愛国テイナーたちも最初は、善意や正義で主張や行動を起こしてきたのだろう。しかし現在の状況を見る限り、偏狭なナショナリズムや軽薄な歴史観を振りかざしているだけにしか思えない。
また、意識的にか無意識かは不明だが、一部の韓国のアイドルは、歴史の痛みに寄り添うふりをしながら、実際には「愛国」や「正義」を人気や支持を集める手段にしつつ、自身のマーケティングを行っている節もある。いわば「反日マーケティング」である。これらは、歴史や政治に無関心であるよりタチが悪い。なぜならば、被害をこうむった当事者たちを冒涜・利用する行為だからだ。
世界に蔓延する偏狭なナショナリズム
さらなる問題は、この「反日マーケティング」の相似形ともいうべき現象が日本でも起き始めていることだ。数年前、出版業界では「嫌韓ブーム」が起きたが、最近ではその手法が日本の政治家、文化人(特にご高齢の方々)らの人気取りの手段として稼働し始めている。いわば「嫌韓マーケティング」の登場である。
あえてここで個人名を挙げることはしないが、それら日本の著名人たちの投書やSNSへの書き込みは、いずれも“きのこ雲Tシャツ”並みに低俗で、人の痛みに寄り添えない、事実も想像力も欠如したものとなっている。彼らの文面を見る限り、BTSの“きのこ雲Tシャツ”を躍起になって批判する政治家や文化人の大半は、原爆の被害者団体の声に真摯に耳を傾けたり、活動を手伝ったりしたこともないはずである。にもかかわらず、フォロワーや支持者からは「偉い」「さすが」というようなニュアンスでもてはやされている。日本と韓国では、気持ちが悪い、まったく同じ問題が起きているのだ。
もう少し話を広げるならば、自国中心主義および偏狭なナショナリズムは、今や米国や欧州など世界的に蔓延し始めている。裏を返せば、日韓で起きている現象は、現代の世界的な世相を反映したものなのかもしれない。
いずれにせよ、ひとつだけ確かなのは「愛国をかたる人間に、真の愛国者はいない」ということだ。これは、歴史が証明していることである。キレイごとになるかもしれないが、こういう時代だからこそ、「愛国マーケティング」にだまされない、人と人のつながりや好奇心、想像力、そして思いやりを忘れないことが大事なのではないだろうか。そういう意味では、無知なアーティストたちの歌よりも、ゴールデンボンバーの「恋人は韓国人」がおすすめだ。
(取材・文/河 鐘基)
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