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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 村上虹郎『銃』vs池松壮亮『斬、』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.507

武器が目覚めさせる、人間の秘めたる暴力衝動!! 村上虹郎主演作『銃』vs池松壮亮主演作『斬、』

塚本晋也監督との初タッグとなった『斬、』の池松壮亮。『鉄男』の主人公のように、次第に剣と肉体とが一心同体化していくことになる。

 時代劇設定の『斬、』は、塚本監督の代名詞であるSFパンクムービー『鉄男』(89)の兄弟作と言える内容だ。『鉄男』の気弱な主人公(田口トモロヲ)は金属に肉体を侵蝕され、暴力衝動に身を任せた別人格へと変身してしまう。主人公が変身するきっかけを与えたのは、謎の男・ヤツ(塚本晋也)だった。『斬、』でも塚本晋也演じる“剣の達人”澤村が、杢之進を別人格へと変身させる。これからの戦乱の世でひと旗挙げるには、生ぬるい理性を抱えたままでは不可能だからだ。理性の留め具を外された杢之進の中から、とてつもなくおぞましいものが姿を見せることになる。

 国内外の多くのクリエイターに影響を与えた『鉄男』の時代劇バージョンとも呼べる『斬、』だが、塚本監督の前作『野火』(15)をよりミニマムに絞り込んだ作品にもなっている。戦争映画『野火』では戦場という過酷な状況の中で追い詰められた人間が否応無しに変貌していく姿をまざまざと描き出してみせた。今回は一人の人間の中に、戦争という地獄を呼び寄せる因子が隠されていることを塚本監督は暴き出してみせる。池松壮亮の鍛えられた肉体の中から現われるものは、いったい何だろうか。

 武器があるから人間は暴力衝動に駆られるのか、それとも訓練を積めば暴力衝動はきちんと制御することができるのか。核ミサイルを搭載した米軍爆撃機に出撃命令をくだす衝動から逃れられない『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』(63)のようなキチガイ司令官が現実世界に現われないことを願う。
(文=長野辰次)

『銃』
原作/中村文則 脚本/武正晴、宍戸英紀 監督/武正晴
出演/村上虹郎、広瀬アリス、日南響子、新垣里沙、岡山天心、後藤淳平、中村有志、日向丈、片山萌美、寺十吾、サヘル・ローズ、山中秀樹、リリー・フランキー
配給/KATSU-do、太秦 11月17日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー中
c)吉本興業
http://thegunmovie.official-movie.com/

『斬、』
監督・脚本・撮影・編集・製作/塚本晋也
出演/池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
配給/日本映画社 11月24日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国公開
(c)SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER
http://zan-movie.com/

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最終更新:2018/11/22 19:30
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