『その指先でころがして』『甘く奏でて』ディビの描く“女性上位の耐えられない五感”の快楽
#アダルト #マンガ #エロマンガ
設定をじっくり考えたことなんてない。キャラクターの姿形も考えない。まず一番最初に考えるのは、台詞。台詞が生まれてから、プロットを考え、ようやくキャラクターの番。計算して「読者にここで、こう……」とは、微塵も考えたことはない。ぼくが、ちらちらと気になる登場人物の恋愛感情も、まったく意図することの埒外。
「無意識で考えてるかも知れないけど……自然に入っているだけ。漫研の話とかは、達成できなかった青春があるのかな……」
ふっと思い出す青春の後悔も、今は笑い飛ばせるもの。だから、ディビは、また、はにかんだ笑顔。その裏表のない性格が、作品にも響く。
「されたいことを描いているだけで、されたくないことは描かない。えーと、一番されたいことは……悩むなあ」
やりたいようにできないのなら、作品をつくる意味などない。ほかの人がどうやってるかは気にしない。で、生まれたのが、ページを埋め尽くすような文字。これも、描きたいように描いてたら、自然となっただけ。
「文字が多いと興奮するわけじゃないけど……そのページで伝えたい情報を、全部描いたら、こんな風に……」
描きたいものは、自室のホワイトボードに次々と描きだしている。掲載する先が、男の娘専門だとか、最低限の縛りを除けば編集者は、ディビの描くことに意見しない。だから、思いついた順に描いていく。どれも描きたいものだから、一作ごとに前よりも、次はと、作品の濃さは増す。過去の作品を振り返るのは苦痛。読み返すことは、ほとんどない。とりわけ最近、濃さを増すのは下着とポーズ。そう、ポージングにデッサン人形なんかは使わない。シワや筋肉の歪みを除けば、すべて脳内で組み立てる。
「実際にできる動きをしたかったら、漫画である必要がない。アダルトビデオとか3D人形でやればよくなっちゃう……」
そうやって、一作品にかける時間は約1カ月。作画よりも、プロットのほうが時間が多め。そうして考えているうちにも、責めの言葉は次々と浮かぶ。ホワイトボードもまた、これから描きたい作品と、使いたい責めの言葉で余白はない。無数のセイレンたちが、解き放たれる時を、待っている。
そんな創造主でも、人の評価は、やっぱり気にはなるものだ。
「読者の反応は、すごく気になる。気になるけど……だから、やることを変えようとは思わない」
で、本を手に取り熱狂する人は、ディビが考えているよりも多かった。中には女性の読者もいる。実家暮らしとはいえ、漫画を描くだけで暮らしも成り立つようになった。おお、まさに漫画家志望者が憧れる階段を、一段一段と踏みしめている。でも、小さな成功に安住するなんて色気は、まったく無縁。仕事の合間は、読書と土いじり。そして、時々、ロードバイク。
「欲しいものは……うーん4Kの液晶タブレットと、新しい自転車」
ディビの名前と作品とを、賞讃の言葉と共にネットでよく見かけるようになったけど、大家は中堅でも、ベテランでもないのは当たり前。それもそのはず、がむしゃらに描いて、評価されても、満足してるかと思えば、まだ全然。とりわけ、ヒロインは、そう。
「まだ、全然しっくりこない……特に、顔の造形とか表情は、自分の理想になってない。吐く言葉は出来ているし、頭の中ではできてるんだけど……」
だから、今はがむしゃらに描かなければいけない。練習もする。そう、自分がこうありたいという未来の目標も、まだ霧の向こう。
エロは描きたい、でも、エロ以外でも……。
「そう、エロは今のスタイルしかかけないけど……一般作は描きたいものが……そう、SFだったら無限にかけるなあ。もともと、SF作品に憧れて描いてきたから、そんな要素の入ったエロも描いているけど……一般作でも描いてみたいなあ……」
「宇宙は好き?」そう問えば、ディビはふっと顔つきが熱く、嬉しそうになる。
「ええ、はやぶさが帰ってきた時、ぼくは本当に泣きそうになって……描けるかどうかは別として宇宙開発の話は描いてみたいなあ。今は、講談社のブルーバックスとか一人で読んでるだけだし……」
「宇宙の話をできる友達は……」少し、ディビの表情が曇る。
「仲間はいないかな……あまり興味がないだろうから、話さないようにしてるし」
ふっと見せる寂しそうな顔。それに、ぼくはドクンとした。ああ、きっとインタビュアーが、あるいは、ぼくが女のコなら。きっと、ディビの手を握って「上に、部屋を取りましょ」といっている。そう、ディビ自身の中から、性別を超えた彼が描くセイレンたちの妖しい魅力の泉が涌きだしている。描かれる男も女もディビ自身。描く作品が、自然と今のものになっているのは、ペンの先からあふれ出している。好きなキャラクターとして、菱沼さんとクシャナ様をあげることの意義。それは、魂の中に秘められた、されたいことの被虐性。したいことの嗜虐性が同居していることの表象。人間の弱い部分と強い部分。アンビヴァレンツなものがとろけあい、共存している。優しさは強引さで、常識は非常識。そんな魂が、ふと垣間見えた時、男も女も関係なしにドクンとするのは当然のこと。いわば、天性のジゴロ。それが、紙の、液晶画面の向こうに渦巻くもの。そんなディビの作品が、18禁の枷を越えて、一般作として生まれ時に、読んだ人はどうなってしまうのか。ぼくや、きみが味わうのとは違う、快感の虜になってしまうのか。
で、今のディビは、前立腺も射精管理も、まったく体験のままに描いている。でも、それは、単に機会がなかったから。ファンに誘われ、まずはSMバーに行くのが、ディビの近々の楽しみ。
間違いない。そこでの経験は、またホワイトボードを埋め尽くす。モノクロ原稿に、白い部分が見えないほどに描きこまれる。やったね! とけちゃうような! 死んじゃうような!快楽の深淵! きみも、ぼくも身を委ねることができる。これからもずうっと! ただ、ページをめくるだけで。
(文=昼間たかし)
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