彼女に張り倒されたヒモ男、ラーメン屋の軒先に現れる“脱糞犯”を追ってみた
#ヒモ #ヒモ男、働く。
先日はマルチ商法と闇金の合体モンスターに襲われかけた、現役のヒモの私だが、とうとう彼女に張り倒された。まもなく壊れそうなラジオを歌う名曲がテレビで流れたのがきっかけだ。彼女が言った。
「もう思春期終わってるんだから、少年から大人になったら?」
強烈な一言である。すかさず言い返してやった。
「ぼくまだ思春期きてないもん!」
音速で張っ倒された。妥当な結果である。すっかり成人して、青ひげ生やした男が言っていいセリフじゃない。
さて、下半身しか思春期を迎えていない私は、お下品なものを男子小学生並みに愛している(男子小学生の皆さん、ごめんなさい)。
これは、彼女に大人になることを強いられているヒモ男が、お下品な仕事に嬉々として立ち向かう奮闘記である。
* * *
未だ大学生をしている悪友と飲んでいるときに、悪友が愚痴を漏らした。
「この前さ、バイト先でやばいことがあって」
彼は個人経営のラーメン屋でアルバイトをしている。
「店に入ってきた爺さんが、『あっ』って言って、そのまま出て行ったんだよ。財布でも忘れたのかなーと思って気にしてなかったんだけど、そのあと会計済ませたお客さんが戻ってきて『店の前にう○こ落ちてる!』って」
それだけで腹を抱えて笑ってしまった。
「お爺さん、我慢できなかったのかね」
などと、まだ犯人と決まっていないお爺さんを犯人だと決めつけ、笑い続けた。
その日はこれで終わった。が、う○こ騒動はそれだけでは終わらなかった。後日、その友人からLINEが届いた。
「暇だよな?」
「無限に暇」
「さすが無職。この前、う○こ落とし爺さんの話したじゃん」
「花咲か爺さんみたいな言い方やめろ」
「あれからまた、う○こ落とされてるみたいで、店長が犯人探ししてるんだよ。で、見つけてとっ捕まえて警察に通報したら1万円くれるらしい」
「やる。絶対捕まえるわ」
こうして、う○こ犯を捕まえる大作戦が始まった。作戦は簡単で、暇なやつが、店の向かい側のコンビ二付近で待機し、脱糞している人物を見かけたら捕獲するというものである。
タバコを吹かしながら暇な悪友たちと見張り続けた。集中力はそう長く続かないもので、途中から「あの人、いかにも脱糞しそうな顔してる」「あのお姉さんが脱糞してたら熱い。いや、しろ!」などと、勝手に通行人の脱糞を想像するゲームに変わっていた。
見張り続けていれば腹が減る。ラーメン屋に入り、のんびりと夕食を済ませたあとのことである。外に出ると、のれんの下にあったのだ。う○こが。
「やられた!」
全員、悔しいというよりも、「マジで脱糞犯いるんだ」という事実に、笑いをこらえていた。
面白かったが、見張り組の失態なのは間違いない。証拠隠滅して誤魔化すことになった。誰が処分するのか揉めに揉め、果てにじゃんけんで負けた私がやることになった。
ビニール袋を重ねてひっつかみ、厳重に包んで店の裏のゴミ捨て場に投げ込んだ。指先に伝わる柔らかな感触と、捨てたときの「どちっ」という重たい音と、「かしゃっ」という軽やかなビニールの音が、今でも記憶にこびり付いている。ただ、健康そうな便であったことは報告しておこう。おそらく、世界一要らない報告だとは思うが。
こうして、敗北を一つ刻み、我々は闘志を燃やすこととなった。見張りも、以前より隙のないシフトで組まれた。
数日間の見張りの後、友人と私がタバコを吸いながら待機していると、友人が囁いた。
「あの爺さんだ」
見た目はごく普通の、カーキ色のカーディガンを着た、70代くらいのご老人だ。格好はどこも変ではないが、挙動が不審である。きょろきょろと周囲の様子をうかがっているようだ。そこで、何かを察したのか、年に見合わぬ健脚で、走って逃げ出した。
慌てて二人で追いかけたが、ヘビースモーカーのスタミナのなさが仇となり、すぐには追いつけなかった。
そのお爺さんは、周到にも近くに自転車を用意していたらしく、ママチャリに乗ったカーキ色の背中が遠ざかっていった。
戦いは、始まる前から結果が決まっているものなのだ。我々は、老獪な脱糞犯に、完全敗北した。
結局、脱糞犯を捕まえることはかなわなかったが、それ以来被害はないということで、5000円頂いた。
これは十分、働いたと言えるのではないだろうか。彼女にそう自慢をしたら、とても哀しいものを見る目をされた。そろそろ心が痛いので、少しは働いてみようと思う。
(文=窪田ショウ/第4話へつづく)
●窪田ショウ
勤労意欲は、タバコと一緒に燃やしてしまった現役のヒモ。楽をしようとすればするほど、妙に大変なことに巻き込まれるのはなぜだろう。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事