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本多圭の「芸能界・古今・裏・レポート」

『積木くずし』穂積隆信さん逝去──忘れられない“ニャンニャン事件”と「マスコミが殺した少年」の存在

『積木くずし~親と子の二百日戦争』

 ベストセラーとなった『積木くずし~親と子の二百日戦争』の著者で、脇役俳優としても活躍した穂積隆信さんが、10月19日未明、胆のうがんのために亡くなった。享年87歳だった。

『積木くずし』といえば、忘れられない、というより、忘れてはならないのが、将来ある一人の少年をマスコミが死に追い込んだ“ニャンニャン事件”だ。

 1982年に発表された『積木くずし』は、中学生だった穂積さんの実娘・由香里さん(2003年死去。享年35歳)が非行に走ってから、更生し立ち直るまでの親子の葛藤の日々を描いたノンフィクション。当時、深刻な社会問題となっていた10代の非行を赤裸々に描いたことで、280万部を超す大ベストセラーになった。

 作品は翌年TBSで連続ドラマ化され、主人公の由香里さん役には、当時15歳だった女優・高部知子が抜擢された。高部は、当時高視聴率を誇っていた萩本欽一の冠番組『欽ちゃんのどこまでやるの!?』(テレビ朝日系)で“萩本家の3人娘”「わらべ」の長女として“のぞみ”役を演じてブレイク中だったが、清純派のイメージを覆して不良少女役を熱演。ドラマは大ヒットし、最終回視聴率が45.3%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録するほどの社会現象にもなった。

 ところが、ドラマ終了直後の83年、写真週刊誌「FOCUS」(新潮社)に、未成年の高部がベッドで裸体に布団をかけた状態でタバコをくわえている写真が掲載された。後に“ニャンニャン事件”と呼ばれるこのスキャンダルによって、高部は数々の番組やCMの降板を余儀なくされ、高校も無期停学となった。

 写真を持ち込んだのは、高部より3歳年上の、元交際相手・I少年だった。ドラマ『積木くずし』にエキストラ出演したことから、撮影を通じて高部と親しくなったという。ただ、少年は高部に夢中になったものの、交際は長くは続かず、彼女に弄ばれたと思い込んだI少年は、2人のセックスを連想させる写真を日本テレビ系ワイドショーのリポーターKのもとに持ち込んだ。

 ところが、リポーターKは、当時、自らが癒着関係にあった高部の所属事務所「ボンド」(その後、倒産)の社長に、写真の扱いについて相談。そこでスキャンダルを知った事務所が日テレに圧力をかけ、ネタはボツになった。

 写真をボツにされたうえ、I少年はそれ以来、高部を守ろうとする何者かに依頼されたとおぼしき暴走族や暴力団から、嫌がらせを受けるようになった。納得がいかない少年は、今度は「FOCUS」に持ち込んだ……これが、“ニャンニャン事件”の発端だった。

 前述の通り、写真は一大スキャンダルとなり、女性週刊誌や夕刊紙が次々に後追い。高部の手紙や会話の録音テープの内容が相次いで掲載される一方、I少年に対する暴走族や暴力団からの嫌がらせもエスカレートしていった。少年は、有名企業の社長の息子だったが、身の危険を感じて、旧知の病院院長に相談。その病院は、ドラマのセットとしても使われており、院長はI少年の母親の主治医だった。

 筆者は当時、親交があった“元祖・芸能リポーター”の故・梨元勝さんと一緒に取材に関わっていたが、この院長からI少年について相談を受けた。そこで梨元さんと対策を練り、ひとまず院長の親族がいる福島県にI少年の身を隠すことにした。

 I少年は、親族が経営するガソリンスタンドでアルバイトをしながら、世間が“ニャンニャン事件”を忘れるのを待った。筆者のもとには時々「元気でやってます」との連絡が入っていた。

 しかし、その年の9月、I少年は茨城県の林道で、自動車の排気ガスを使った自殺死体で発見された。

 筆者は、納得できなかった。以前から少年が暴力団におびえていたため、他殺の疑いもあるのではないかと取材を続けた。少年の父親から「他殺ではない、自殺なんだ。もう取材はやめてくれ」と懇願されても、やめることができなかった。

 すると、父親から「実は、遺書があるんだ」と打ち明けられた。見せられたそれには「マスコミに利用されて、裏切られた」と書かれていた。筆者が知らない間に、マスコミの人間が福島から少年を呼び出しては、高部ネタの情報源にしていたのだ。筆者は愕然とした。筆者も含めて、マスコミが純粋な将来ある少年を利用して死に追いやったのだ。

 少年の死によって、高部の女優人生も挫折した。それだけに“ニャンニャン事件”は、我々の戒めとして、忘れてはならないのだ。穂積さんと少年に、改めて合掌。

(文=本多圭)

最終更新:2018/10/31 06:00
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