イモトアヤコら芸人の起用が多いのは理由あり!? ピコ太郎の天狗鼻を折った『下町ロケット』第3話
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■TBSには視聴率を爆上げする切り札があった!!
さて、『下町ロケット』はお笑い芸人や元アナウンサーといった俳優業を専門にしていないキャストが多く起用されていることが良くも悪くも話題になっていますが、これには明確な理由があります。TBSでは直木賞作家・池井戸潤の企業小説を、慶應大学の後輩になる福澤克雄チーフディレクターが中心になって『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』『陸王』と連続ドラマ化してきました。基本的にこれらの作品は、どれも現代の物語です。つまり、佃社長が農業用トラクターの開発に取り組んでいる一方、『陸王』の社長は新しいシューズづくりに情熱を燃やし、『ルーズヴェルト・ゲーム』の野球部は黙々と練習に励み、『半沢直樹』の主人公は金融界で奮闘を続けているわけです。竹内涼真が『陸王』、立川談春が『ルーズヴェルト・ゲーム』にも出ているという例外はありますが、なるべく池井戸作品同士でキャストは被らないようにTBSは配慮しています。
これだけ池井戸作品が続けてドラマ化されると、そうでなくても企業ドラマは出演者数が多くなるので、実力派俳優を作品ごとに集めるのは大変です。それもあって、演技力が必要なキーパーソン役には、尾上菊之助や中村梅雀といった舞台経験豊富な歌舞伎俳優を起用。その一方で新しい風を起こす新戦力として、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系)で数々の秘境を探検してきたイモトアヤコ、ピコ太郎として世界的に知られる古坂大魔王といったお笑い芸人たちを積極的に抜擢しているようです。お笑い芸人の多くは長い下積みを経験しており、組織の中で実力を発揮できずに燻っているサラリーマン役が意外と似合います。また、『半沢直樹』ではギョロ目の滝藤賢一がブレイク、今回の『下町ロケット』では“ポスト石原裕次郎”だった徳重聡が注目を集めるなど、埋もれ気味だったバイプレイヤーたちにスポットライトを当てているのも、池井戸ドラマの面白さです。脇役たちの活躍が、働くお父さんたちの共感を呼ぶのです。
さて、気になる視聴率。第1話は13.9%、第2話は12.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と数字が右肩下がり状態でしたが、第3話は14.7%と盛り返してきました。第2話はクロスライセンス契約にリバースエンジニアリングといった難しい専門用語が1時間30分にわたって延々と語られたわけですが、今回はピコ太郎がその天狗鼻を佃社長らにへし折られ、すっかり改心するという『水戸黄門』(TBS系)を思わせる非常に分かりやすい展開だったことが功を奏したようです。農業用トラクターの開発という地味な題材で15%近くの数字を稼ぐなんて、本当にすごいと思います。
多分、TBSは視聴率にはさほど惑わされずに、池井戸潤の企業小説を原作に地味で泥臭いドラマを黙々とこれからも作り続けることでしょう。もし視聴率が低迷しても、TBSには秘策があります。それは佃社長が新製品の開発に乗り出すも、開発費が捻出できずに困っている窮地を、『半沢直樹』が勤める銀行が資金援助するというアイデアです。マーベルのスーパーヒーローが一堂に会したSF大作『アベンジャーズ』(12年)のように、佃社長と半沢直樹ががっちりタッグを組むことになれば、それこそ視聴率の爆上げは間違いありません。
でも、福澤チーフディレクターをはじめとするTBSドラマ班は視聴率が低いからという理由では、この切り札は使わないでしょう。奇策には頼らず、キャスト陣の地道な演技の積み重ねとアンサンブルの妙味で、ドラマを盛り上げていくことと思います。佃社長が新製品の開発に成功し、名もない飲み屋でひっそりと祝杯を上げていると、たまたま同じ店に居合わせた半沢直樹ら他の池井戸作品のキャラクターたちが、その労を笑顔でねぎらう。サラリーマンの喜びって、そのくらいが丁度いいんじゃないでしょうか。
(文=長野辰次)
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