あの「高熱隧道」が観光地に! 黒部ルートが観光整備して一般開放されるぞ
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あの究極の秘境路線が一般に開放される。関西電力が黒部ダムの工事用輸送路として整備している「黒部ルート」の一般開放が、2024年から始まるというのだ。
この「黒部ルート」は、富山県の山中を走る黒部峡谷鉄道の終点・欅平駅と黒部ダムとの間を走る鉄道とバスなどによってつながれた約18キロの路線である。山をくり抜いたトンネルを進む鉄道の目的は、関西電力の発電施設の維持のため。冬になれば雪に閉ざされる黒部峡谷。自然の猛威に晒される発電施設を維持するために、長大なトンネルは存在するのである。
それが、いかにとんでもないルートかを記すのは、吉村昭のノンフィクション小説『高熱隧道』(新潮文庫)である。これは、昭和初期に仙人谷ダムと黒部川第三発電所を建設するために、トンネルを建設した様子を描いたもの。ほぼ、史実に基づいた内容なのだが、工事の状況は信じられないものだ。
トンネルを掘り進めるうちに、温度が100度を超える岩盤に到達。やむなく黒部川から水をくみ上げて、作業員に水をかけながら工事を進めるも、冷水がたちまちお湯になり、人はバタバタと倒れる。そして、地熱でダイナマイトが自然発火し犠牲者も出る。冬になれば、雪崩によって鉄筋コンクリート製の作業員の宿舎が人間もろとも、峡谷の対岸まで吹き飛ばされる。結果、300人以上の死者を出してまで必死に完成したのが、このトンネルなのである。
これまで、黒部ルートを訪問する方法は毎年関西電力が実施する、シーズン中(例年5月~10月)平日の見学会に応募し抽選を勝ち取るしかなかった。それでも、年間2,000人あまりが参加していたのだが、観光地化によって年間最大1万人が見学できるようになるという。富山県では立山黒部アルペンルートを併用して、黒部をぐるりと一周できる国際観光地とすることを目論んでいるようだ。
いまだに、岩盤の熱が風となって吹き付けるという自然のすごさを教えられる黒部ルート。かなり注目される観光地になることは、間違いない。
ただ、ここが観光地化されても、まだ黒部にはハイレベルなルートが。トンネルをゆく黒部ルートと異なり、黒部川上流沿いに設置された日電歩道・水平歩道というものがある。これは、黒部峡谷に水力発電所を建設するにあたって、最初に開削された道。深い谷を無理矢理に削り、木道を渡してつながれた道だ。現在でも、関西電力による管理が行われている。
こちらは、安全対策はほぼなし。足を踏み外せば、谷底へ真っ逆さまという恐るべきルート。それでも、多くの登山者が利用しているので、体力に自信のある人はこちらを試してみる手も。
なお、黒部ルートの地下にも冬期に作業員らが徒歩で行き来するためのトンネルが通っているのだが、こちらも一度くらいは一般開放してほしいと願っている。
(文=昼間たかし)
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