被災市民への復興支援金200億ドルが闇に消えた!? 国連腐敗構造を暴く『バグダッド・スキャンダル』
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本作の中には、白黒のはっきりしない幾つものグレーゾーンが存在する。膨大な額の支援金が用途不明のまま消えている。パシャに言わせれば、中東では何事を行なうにしても仲介者へのリベート(手数料)が必要となるため、数字が合わなくなるのは仕方ないということらしい。古くなった医薬品や賞味期限切れの食料が多いが、支援を打ち切るよりはマシではないかというのもパシャの理屈だった。パシャはマイケルを重用するが、それは同時にマイケルを自分と同じ穴のムジナへとしてしまう行為でもあった。名優ベン・キングズレーと『ダイバージェント』(14)で頭角を現わした若手俳優テオ・ジェームズとの“擬似的父子関係”が本作のドラマ性を盛り上げる大きな要素となっている。
もうひとつのグレーゾーンは、マイケルがイラクで知り合う女性通訳ナシーム(ベルシム・ビルギン)との関係性だ。パシャの操り人形状態だったマイケルはナシームに連れられ、イラク北部にあるクルディスタンの墓地を訪ねる。そこにはサダム・フセインの命令で製造されたサリン、VXガス、マスタードガスといった化学兵器によって大量虐殺されたクルド人たちが無言で眠っていた。パシャの言う「選んだ事実」の裏側を知ってしまうマイケル。2人の行動はイラクの秘密警察に筒抜けだった。共に危険を冒す身となったマイケルとナシームは、どうしようもなく肉体関係を結ぶことになる。2人の関係に気づいたパシャは、「あの女はスパイだから気をつけろ」と忠告する。ナシームはマイケルにハニートラップを仕掛けたのか、それとも恋愛感情あってのことなのか。パシャとナシーム、どちらの言い分を信じればいいのか。グレーゾーンの中でもがくマイケルは決断を迫られる。
1985年7月、ロックミュージシャンのボブ・ゲルドフが提唱し、欧米各国の人気アーティストたちが大挙出演した「ライヴエイド」が世界中にテレビ中継された。アフリカで飢餓に苦しむ子どもたちを救うための大規模なチャリティーコンサートで、一昼夜のライブながら280億円もの大金が集まった。だが、アフリカに送られた肝心の支援物資は途中で次々と中抜きされ、現地に届いたのは腐った食料だったという悲惨な結末が伝えられている。救援物資は集めること以上に、本当に困っている人にきちんと届けるのが難しく、支援金が正しく使われているかどうかを確かめることも難しい。善意や慈善を謳ったものほど腐敗度も激しく、その扱いは容易ではない。
イラクで起きた「石油・食料交換プロジェクト」問題は国連を根底から揺さぶる一大スキャンダルだったが、国連側は調査協力を拒否しており、全貌は明らかになっていない。国連に対して年間250億円も負担している日本が、この問題に無関心でいていいものだろうか。残念ながら日本のマスコミは、国連の不祥事問題をほとんど取り上げることがないままとなっている。
(文=長野辰次)
『バグダッド・スキャンダル』
原作/マイケル・スーサン 監督・脚本/ペール・フライ 脚本/ダニエル・パイン
出演/テオ・ジェームズ、ベン・キングズレー、ジャクリーン・ビセット、ベルシム・ビルギン
配給/アンプラグド 11月3日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開
C)2016 CREATIVE ALLIANCE P IVS/ BFB PRODUCTIONS CANADA INC. ALL RIGHTS RESERVED.
http://baghdad-s.com
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