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日刊サイゾー トップ  > 300万円欲しいヒモ男の実録ルポ
「ヒモ男、働く。」第1話

300万円欲しいヒモ男、よくわからない「最強スターターキット」が当選したので“本部”を訪ねてみた

『ヒモメン』というテレビドラマをご存知だろうか。2018年7月から9月までテレビ朝日で放送されていた、漫画を原作とするテレビドラマである。

 働く気がないヒモ男を、看護師の彼女が働かせようとする、というラブコメディだ。

 視聴者の多くは、窪田正孝が演じたヒモ男のどうしようもなさを、笑いながら観ていたことだろう。しかし、どうしても『ヒモメン』を笑って観れなかった人がいる。

 私のような、現役のヒモ男である。

 他人事ではないのだ。

 窪田正孝くらい圧倒的なイケメンであれば、不安はないかもしれない。が、そうでもないごくごく普通のヒモ男にとっては、「彼女が働かせたがる」というのは死活問題なのである。

 案の定、彼女が影響を受けて私を働かせようとし始めてしまった。

 これは『ヒモメン』の余波を受けた、ヒモ男の奮闘記である。

 * * *

 とはいえ、働けといわれて素直に働くなら、そもそもヒモになどなっていない。なんとかして、楽に「働いている」という体裁をとる方法を探すことにした。

 そこで、いわゆる「副業」と呼ばれる分野に手を出してみることにした。

 普通に働いている人が、休日の片手間にする程度の仕事であれば、私にも簡単にできるだろう、という安易な考えだ。

 さて。きっかけは、「こけビジネス」について調べているときに訪れた。

「こけビジネス」というのは、古びた岩の表面に生えているような、モサモサした植物のこけを売る仕事で、意外と儲かるらしい。

 この手の「お金の稼ぎ方」や「貯め方」に関するネット記事には、たいていの場合、副業やネットビジネスのバナー広告がついている。そのうちの一つに目がとまった。

「あなたも月収300万円を目指しませんか?」

 次の瞬間、クリックしていた。300万円欲しい! 簡単に稼げるなら300万円欲しいし、それが無理でも、ちょっとした労力で10万円でも稼げれば美味しい話だ。

 クリックした先のwebページには、こんなことが書いてあった。

「大人気につき、抽選で300人限定でご案内します。応募者は、応募フォームに名前とメールアドレスを入力してください」

 大人気らしい。意気揚々と偽名・使い捨てアドレスを入力。すると、1分程度でメールが来た。

「今回はご応募ありがとうございます。と同時に、おめでとうございます! 今、『なんで?』と思いませんでしたか? インターネットでの副業は実際に流行ってからするのでは一歩遅いのです。今回こうして応募したあなたは、知らない人よりも一歩抜きんでたことになります」

 このような内容のあとに、LINEを友達追加して欲しいということが書いてあった。

 大人気なのに、流行ってからでは遅いビジネスで、一歩抜きんでているらしい。

「どんな攻撃も防げる盾ですが、すでに矛で穴を空けられています。でも、あなたの防御は万全です」

 故事に例えるなら、こんな感じだろうか。実に不思議なことだが、おめでとうと言われて悪い気はしない。

 当落がはっきりする前に、事前にこのネットビジネスを提供している会社について調べることにした。大人気、というからには口コミなどあるだろうと検索してみたところ、3つほどブログを見つけた。どのブログでも、信用の置ける会社で、とても稼ぐことができたと絶賛している。

 すばらしい。どのブログも開設日が1週間以内で、このネットビジネスについての記事しかないのは不思議だが、そういうこともあるのだろう。ネットの口コミでは高評価なのだ。

 それから2日間、「あなたには絶対に稼がせてみせます」「万全のサポート体制!」といった、少しばかり気の早いメールを3時間おきに受信しながら、当落を待った。そして、当落発表日の午前11時。

「100%収益を上げられる、最強スターターセットに当選しました!」

 見事、当選。定員300名の枠をもぎ取ったのだ。

 最強スターターセットとは、アンケートビジネスというものを始めるのに必要なものらしい。お値段、なんと1万6,000円。決して安くはないが、お約束3か条なるものがあるらしい。

お約束1 100%収益を上げられることをお約束します!
お約束2 まったく稼げない場合は返金保証!
お約束3 追加料金なく即開始可能です!

 とても頼もしいが、お約束1とお約束2が矛盾しているのは気のせいだろうか。それでも、返金保証があるのは頼もしい。そこで、LINEを使って問い合わせてみた。

 そもそもスターターセットとは何なのか。なぜ、その金額なのか。そして、返金保証の具体的な手続きはどうなっているのか。返信は、次のようなものだった。

「アンケート使用の際に使用するシステムです。返金保証、キャッシュバック、後は無料で飽和しないことを目的としてます。収益が出なかったらサポートセンターで対応してます」

 日本語が怪しく、どことなく翻訳ツールを通したときのような、雑な敬語の雰囲気だ。「です」「ます」で終わらせればいいというものではない。

「なぜその金額なのか」という質問に対して「返金保証、キャッシュバック」という返事はおかしい。

 いや、あえてこの返事が正しいとしよう。本気でこう返してきたのだとする。これを喫茶店で例えると、「なぜコーヒーが1万円するのですか?」「クーポンや商品券をたくさんお付けするからです」と言っているようなものだ。いや、返金保証もキャッシュバックも要らないから、無料にしろよ。

「無料で飽和しないこと」とも言っている。一見正しい理屈のようだ。が、ちょっと前に見た言葉を思い出した。「抽選で300人限定でご案内」。そう、これは初めから300人限定なのだ。無料だからといって、どこに飽和する理由があるのだろうか。

 それに、このネットビジネスは、アンケートビジネスなのである。むしろ、利用者は増えるべきであって、そもそも300人に限定する理由すらわからない。

 怪しくなってきた(最初から十分怪しい)。

 ここで思い出したのが、口コミのブログに書いてあった「特定商取引法に基づく表示があるから安心」という言葉だ。スターターセットの申し込みサイトには、確かにこの表示があった。特定商取引法に基づく表示に記載してある住所を調べたところ、東京都杉並区にあるアパートが出てきた。

 参加者に月300万円稼がせるネットビジネスの事務所に、築34年の軽量鉄骨アパートが使われている。それは良いとしても、アパートなのに部屋番号が書いていない。事務所はどの部屋番号なのか、LINEで訊ねてみた。

「事務所は都内の数箇所にございます!」

 日本人が返信しているのか怪しい、相変わらず的を外した答えが返ってきたので、再度訊ねた。

「本部です。部屋番号は皆さんに開示はしてませんので承知ください」

 怪しい敬語、再来。

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