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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > “処刑人”の顔を持つ救命医の物語
【深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.502

昼は救命医、夜は処刑人という2つの顔を持つ男!! 人間の内面に渦巻く矛盾性『デス・ウィッシュ』

腕のいい医者でありながら、殺人に手を染めるポール・カージー。ハリウッド版『必殺仕掛人』と呼びたくなる設定だ。

 オーストリア製の軍用銃「グロッグ17」を非合法に入手したポールは、強盗団に制裁を下す前の手慣らしとばかりに、街で遭遇したストリートギャングやドラッグの売人を相手に試し撃ちを行なう。多くの人命を救ってきたその手で、悪人とはいえあっさり人間の命を奪うポール。今まで感じたことのない万能感に酔いしれる。フードで顔を隠したポールが発砲する姿は、近所の住人たちが動画をSNS上にアップしたことでグリム・リーパー(死神)の呼び名で瞬く間に広まっていく。血にまみれたダークヒーローの誕生だった。

 人の命を救うことを使命とする医者が、家族を奪われたことから復讐鬼へと変貌を遂げることになる。イーライ・ロス監督の『デス・ウィッシュ』は『狼よさらば』のリメイクであるのと同時に、フランスの名匠ロベール・アンリコ監督の名作『追想』(75)も思わせる。実在の虐殺事件を題材にした『追想』では、愛する妻と娘をナチス残党に惨殺された医者が古い猟銃を手に、単身で戦いに挑んだ。『地下鉄のザジ』(60)や『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)で知られる、見るからに温厚そうなオジサン俳優フィリップ・ノワレが復讐心に取り憑かれる姿が痛切だった。

 ブルース・ウィリスがまるで医者に見えないという『デス・ウィッシュ』の大きな問題点はさておき、ようやく強盗団一味を見つけ出したポールは、外科医らしく研ぎ澄まされたメスを使って、獲物の腱を切断し、神経をいたぶり、じわじわと復讐を楽しむ。ディテールたっぷりな処刑シーンの描き方は、『ホステル』(05)や『グリーン・インフェルノ』(13)のイーライ・ロス監督らしさが満開。当然ながら、ブルース・ウィリスも医者を演じているシーンより活き活きとしている。そして、何よりも生殺与奪の権利を手にしたポールのほくそ笑む表情が印象に残る。原始社会の呪術医のように相手を生かすも殺すも、ポールの胸の内次第だった。

 病院での執刀だけでなく、現代社会に巣食う悪性腫瘍の豪快な切除手術も手掛けるようになったポール。掛かり付けのカウンセラーからは「最近は顔色がいいわ。調子よさそうね?」と尋ねられ、にっこりと笑顔でうなずいてみせる。ポールは自分の内面にずっと潜んでいた野生の狼が目を覚ましたことに気づく。そして覚醒したポールの遠吠えに呼応するように、各地でグリム・リーパーを真似た模倣犯が次々と現われ始めた。目には目を、暴力には暴力を。街に不穏な空気が充満し、警察は頭を抱えるはめに陥る。

 復讐に燃えるポール・カージーは、このまま暴力衝動に生きる人狼となってしまうのだろうか。寸前のところで、彼は人間でいることに踏み止まろうとする。意識がないとはいえ、娘ジョーダンがまだ病院で眠り続けているからだ。娘ひとりを残して、狼に成り切ってしまうわけにはいかない。イーライ・ロス監督が用意した『狼よさらば』とは異なるクライマックスに注目したい。
(文=長野辰次)

『デス・ウィッシュ』
原作/ブライアン・ガーフィールド 脚本/ジョー・カーナハン 監督/イーライ・ロス 
出演/ブルース・ウィリス、ヴィンセント・ドノフリオ、エリザベス・シュー、ディーン・ノリス、キンバリー・エリス、カミラ・モローネ、ボー・ナップ 
配給/ショウゲート R15 10月19日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
C)2018 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
http://deathwish.jp/

 

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最終更新:2018/10/19 22:30
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