全国各地に残る、元遊郭の転業旅館をカメラマンが渾身取材!『遊郭に泊まる』
#本
昭和33年4月、「売春防止法」が施行され、遊郭は日本地図上からは一斉に消えた。けれども、全国各地にその姿を留めたまま、「転業旅館」として現在も営業している宿が、実はある。『遊郭に泊まる』(新潮社)は、そんな転業旅館14軒を紹介する、遊郭ファンにはたまらない1冊だ。
カメラマンの関根虎洸氏が3年ほどかけてすべてを訪ね、独特の意匠を誇る廓建築の内外観を隅々まで撮影し、当時を知る人々にインタビューを試みている。また、番外編として、遊郭から転業した飲食店や中国に残る転業旅館を紹介。さらに、京都にあった橋本遊郭で育った女性の興味深いインタビュー記事も掲載されている。
筆者は表紙の写真に惹かれ、ジャケ買いしてしまったのだが、ページを開くと、想像以上だった。遊郭建築の圧倒的な存在感、独特の佇まいに、思わず「おぉ……!」と感嘆の声が出た。14軒すべてが素晴らしく、中でもグッときたのは、本書でトップを飾っている青森県の八戸にあるとある宿。館内に入ってすぐに、魅惑のY字階段と空中回廊があり、今にも遊女たちが顔を出してくれそうな雰囲気が漂っている。帳場には、娼妓が大人数で並ぶ古い写真をはじめ、相手をした娼妓やお客の風体(!)に至るまで詳細に記された顧客名簿「遊客帳」などが展示されているそうだ。男性器そのものの形をした金精様(こんせいさま)と呼ばれる道具もあり、遊女たちが来客祈願をしていたそうなのだが、一体どんな様子で祈っていたのだろう。
関根氏が撮る写真は、遊郭という建物への愛があふれ、並々ならぬ遊郭への関心が伝わってくる。1枚たりとも無駄な写真がなく、補足文も秀逸。例えば、新潟県にある宿の外観写真には、「『通称十四番遊郭』の規模は昭和初期当時、貸座敷94軒、娼妓500人。全国的な知名度を誇る遊郭だった。昭和8年生まれのご主人は『ここで生まれ育ったのはもう私だけなんです』と語る」などと書かれ、もっと知りたい、宿主に会って聞いてみたい、と思うようなことがちりばめられている。
宿泊情報もしっかりまとめられていて、素泊まりで3,000円から泊まれる宿があったりと、想像以上に安いことがわかる。「料金は電話にてお問い合わせください」と書いてある旅館もあるものの、高くても食事付きで1万円ほど。どれもリアルに泊まってみたいと思う宿ばかり。宿の経営者は、「私の代までは頑張るが……」という高齢の経営者が多かったそうだ。気になる方は本書で宿を調べ、ぜひとも早めに訪れてもらいたい。
(文=上浦未来)
●せきね・ここう
フリーカメラマン。1968年埼玉県生まれ。元プロボクサー。2001年『DOG&GOD』(情報センター出版局)、2012年『Chelsea・桐谷健太』(ワニブックス)など。14年、旧満州に残る遊郭跡を訪ねたことをきっかけに、遊郭建築の撮影を開始。
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