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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > お蔵入り寸前の千原ジュニア主演映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.501

原作者急逝、清水富美加の出家とトラブル続出!! お蔵入り寸前だった千原ジュニア主演作『ごっこ』

“ジャックナイフ”と呼ばれた若手芸人時代には、豊田利晃監督のデビュー作『ポルノスター』(98)、瀬々敬久監督の実録犯罪映画『HYSTERIC』(00)などに主演し、怖いもの知らずのとんがりぶりを見せていた千原ジュニア。10年から始まったドラマ『新・ミナミの帝王』(関西テレビ)では非情さを極めた闇金屋に扮している。だが、子役の平尾菜々花との2人芝居の多い『ごっこ』では、慣れない父親役を通してこれまでにない優しくナイーブな素顔を見せている。

 一人でいるときはカップ麺しか食べていなかったのに、育ち盛りのヨヨ子のために初めてのカレー作りに挑戦する。テレビのヒーロー番組が大好きなヨヨ子にせがまれ、汗だくでヒーローごっこに興じる。ヨヨ子に「ありがとう、ごめんなさいを言えるようになろう」と教えた手前、自分が率先して頭を下げるはめになる。始まりは単なるごっこ遊びだったが、城宮は真剣にヨヨ子と向き合う。一人では漫才ができないように、一人ではごっこ遊びもできない。小さなパートナーがいることで、城宮は変身を遂げていく。城宮はヨヨ子の世話を焼いているつもりだが、実は城宮を大人へと導いているのはヨヨ子のほうだった。ヨヨ子の拾うBB弾が、2人の距離をより縮めていく。

千原ジュニアが結婚した直後に撮影された『ごっこ』。子どもの扱いに慣れていない様子が、そのまま映画に反映されている。

 千原ジュニアが『ごっこ』に出演したのは、独身生活に終止符を打った直後のタイミングだった。現在は一児のパパとなっている千原ジュニアだが、撮影時は新婚家庭を持ったばかりで、子どもはまだ不在だった。熊澤監督の前作『ユリゴコロ』(17)で吉高由里子扮するサイコキラーの幼年期を演じた小さな名優・平尾菜々花を相手に、不器用ながらも父親役を懸命に演じる姿は疑似家族をテーマにしたドキュメンタリー映画そのものとなっている。

 城宮とヨヨ子の関係は歪んだ疑似家族ゆえ、円満には進まない。同じ商店街で暮らす幼なじみのマチ(優香)は警察署に勤めており、城宮が無職でいることを咎める。マチに勘ぐられたくない城宮は働きに出掛けるようになり、ヨヨ子と一緒になって遊んでいた楽しい家族ごっこの時間は終わりを告げる。再び一人ぼっちで家に残されるヨヨ子の孤独さに、仕事で疲れた城宮は気づくことができない。親子ごっこから本当の親子になろうとした瞬間に、2人の関係性は軋轢が生じるようになってしまう。

 物語のクライマックス、法的には幼女を誘拐し、拉致していたことになる城宮は、ヨヨ子との物理的な別れを余儀なくされる。幼女時代の数カ月を「パパやん」と過ごしたヨヨ子の記憶からも「パパやん」との温かい思い出が消えてしまう。城宮はヨヨ子のお陰でダメ人間から脱したものの、社会からは犯罪者の烙印を押されることになる。では、『ごっこ』はバッドエンディングの哀しい物語なのだろうか。そして、映画化された『ごっこ』はお蔵入りしかけた残念な作品なのだろうか。

 いや、そうではない。『ごっこ』は生命力に溢れた映画だ。低予算かつ短期間で撮影に入った作品ゆえに不満箇所は多々あるものの、生命力に満ちた作品ゆえに劇場公開に至ったのだ。無視することができない、生きものたちの叫びがこの物語には込められている。千原ジュニアと小さな名優・平尾菜々花が親子ごっこを演じた映画『ごっこ』は、スクリーンから幸せが溢れ出す作品として10月20日に誕生する。
(文=長野辰次)

『ごっこ』
原作/小路啓之 脚本/髙橋泉、熊澤尚人 監督/熊澤尚人 主題歌/indigo la End「ほころびごっこ」
出演/千原ジュニア、優香、平尾菜々花、ちすん、清水富美加、秋野太作、中野英雄、石橋蓮司
配給/パル企画 10月20日(土)より渋谷ユーロスペース、イオンシネマシアタス調布ほか全国順次ロードショー
(c)小路啓之/集英社/(c)2017楽映舎/タイムズ イン/WAJA
http://gokko-movie.jp

 

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最終更新:2018/10/12 20:38
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