「若松さんが亡くなり、青春が終わったと感じた」白石和彌監督が語る若松孝二から受け継いだ遺産
#映画 #インタビュー #若松孝二 #止められるか、俺たちを
──『千年の愉楽』の公開時に高岡さんを取材したことがあります。若松監督が亡くなった翌朝、自宅で寝ていた高岡さんのところまで若松監督が逢いに来てくれたと語っていました。
白石 枕元に来てくれたんだ。そんな話を聞いたら、泣きたくなっちゃいますよ……。若松さん、事故で亡くなったこともあるし、公開作や企画を考えていた作品が残っていたこともあって、僕もそうだし、役者たちも若松作品が途中で中断してしまった感が強かったんです。やりきった感がないというか。それで逢う人ごとに「若松さんの映画をやりたい」とずっと話してきたし、若松さんの残してくれた財産をちゃんと形にしたいなと思っていたんです。若松さんの財産、つまり若松さんの情熱に触れた俳優やスタッフたちを集めて映画をつくろうと。僕なりのケジメのつけ方というか、若松さんへの恩返しですよね。僕なりの若松孝二論をやりたいという気持ちもありました。
──『止め俺』は美しい青春映画ですが、同時に白石監督自身の青春時代への惜別の詩のような印象を受けます。
白石 それはあるかもしれません。若松さんが亡くなったとき、「俺の青春が終わった」と思いましたから。いまどきの青春映画は、「好き」とか「嫌い」とかがメインになったものが多いけれど、青春ってそれだけじゃない。何者かになりたいと願っているんだけど、その何者かになかなかなれずに焦燥感を抱いている若者たちは今も多いと思うんです。若松さんはピンク映画というニッチな世界で、「国辱映画」と酷評され、大炎上しながらも自分の撮りたい映画を撮り続けた。それでいいと思うんです。周囲の目を気にすることなく自分が本当にやりたいと思うものを見つけ、失敗してもいいから思いっきりやったほうが絶対にいい。僕はそう思います。若松作品を観たことのない若い世代にも、ぜひ観てほしいですね。
──最後に白石監督が勧める、若松監督作品ベスト3を教えてください。
白石 『止め俺』の中でもメイキングシーンを描いていますが、原宿のセントラルアパートの屋上で撮った『ゆけゆけ二度目の処女』(69)。60年代の若者たちの心情がすごくよく伝わってくる、若松作品ならではの青春映画です。もうひとつは『新宿マッド』。当時の新宿の猥雑な雰囲気がリアルに感じられます。最後の一本は『天使の恍惚』(72)でどうでしょうか。『止め俺』の最後に若松さんが読んでいるのは、足立さんが執筆した『天使はケチである』という脚本なんです。映画は『赤軍 PFLP 世界戦争宣言』(71)までで終わりますが、その直後に撮ったのが『天使はケチである』を改題した『天使の恍惚』だったんです。これらの作品を併せて観ると、『止め俺』をより楽しめると思います。
(取材・文=長野辰次)
『止められるか、俺たちを』
監督/白石和彌 脚本/井上淳一 音楽/曽我部恵一
出演/門脇麦、井浦新、山本浩司、岡部尚、大西信満、タモト清嵐、毎熊克哉、伊島空、外山将平、藤原季節、上川周作、中澤梓佐、満島真之介、渋川清彦、音尾琢真、高岡蒼佑、高良健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二
配給/スコーレ 10月13日(土)よりテアトル新宿ほか全国順次公開
(c)2018若松プロダクション
http://www.tomeore.com
●白石和彌(しらいし・かずや)
1974年北海道旭川市生まれ。若松孝二監督、佐野史郎主演のオリジナルビデオ作品『標的 羊たちの哀しみ』(96)以降、『明日なき街角』(97)、『完全なる飼育 赤い殺意』(04)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(05)などの若松作品に助監督として参加。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(08)のキャストオーディションを担当するなど、「若松プロ」を離れた後も若松組を支え続けた。『ロストパラダイス・イン・トーキョー』(10)で監督デビュー。監督第2作『凶悪』(13)が数多くの映画賞に輝き、以降は『日本で一番悪い奴ら』(16)、『牝猫たち』(16)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)、『サニー/32』(18)とタイプの異なる話題作を矢継ぎ早に放っている。今年5月、東映系で全国公開された『孤狼の血』は往年のヤクザ映画へのオマージュ作として熱狂的な反響を呼んだ。
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