トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 白石和彌監督が語る、若松孝二の遺産
映画『止められるか、俺たちを』公開記念特集第1弾

「若松さんが亡くなり、青春が終わったと感じた」白石和彌監督が語る若松孝二から受け継いだ遺産

若松孝二(井浦新)に誘われ、新宿ゴールデン街で酒を呑むめぐみ(門脇麦)。映画監督を目指すも、自分が撮るべきテーマが見つからずにいた。

■夜のプールでのヌードシーンは、大先輩からの助言

──後半は『止め俺』のキャストについて。1992年生まれの門脇麦さんですが、役づくりに関して白石監督からどう説明したんでしょうか?

白石 具体的にこうしてほしいみたいなことは言ってないですね。めぐみさんが亡くなったときに、当時撮影助手だった高間賢治さんや仲のよかった秋山道男さんらでめぐみさんを被写体にした小さな写真集を作っていたんです。その写真集を高間さんからお借りして、麦ちゃんには「この写真集を見てくれ」とだけ伝えました。クランクインしてからも麦ちゃんは、その写真集を毎朝見ることをルーティーンにしていたみたいですね。それと、当時の若者はジャズ喫茶で過ごすことが多かったので、「こんなジャズを聴いていたらしいよ」とか、やはり当時の若松さんが撮った映画やその頃の新宿の雰囲気がよく出ている大島渚監督の『新宿泥棒日記』(69)は観ておいてほしいと話したぐらいかな。後は麦ちゃんはおかっぱヘアが似合から、現場の雰囲気をうまくつくって彼女がそこへどう溶け込んでいくかだったと思います。

──夜のプールで、めぐみが全裸で泳ぐシーンがとても美しい!

白石 あのシーンは荒井晴彦さんからのアドバイスなんです。当時のめぐみさんは下落合で暮らしていて、夜中によく裏の小学校に忍び込んで、プールで泳いでいたそうなんです(笑)。撮影現場のシーンはどうしても男臭くなってしまうので、現場では女であることを捨てているめぐみの悩みがポロッと出てしまう夜のプールのシーンを撮ることができてよかった。映画を観た荒井さんは「いろいろと言いたいことはあるけど、まぁいいんじゃないの」とだけ言い残して去っていきましたね(笑)。

──そしてスリム体型の井浦新が、ワイルドな若松監督を演じるという大胆なキャスティング。

白石 多くの人は若松さんの後年のがっしりした、弱冠太っているイメージしかないと思いますけど、30歳前後の若松さんの写真を見ると全然太ってないんです。若松さんは学生時代に柔道をやっていたから骨太感はあるけど、新さんと似てないことはないと僕は思っています。もちろん、脚の長さは断然、新さんのほうが長いですよ。脳内麻薬を出しながら撮っていたので、僕自身が「似ている!」と思い込んでやっていた部分もあるかもしれませんが(笑)。

──劇中で井浦新が映画について熱く語り始めると、段々と瞳がつぶらになり、「あっ、この人の中にも若松孝二が宿っているんだ」と思えてくる。同時に映画を観ている我々も、あの時代にタイムトリップしたような気分に陥ります。

白石 そんなふうに感じてもらえると、うれしいです。新さんにしてみれば、『11.25自決の日』で演じた三島由紀夫以上の無茶ぶりだったかもしれませんが、もし他の俳優が若松さんを演じることになったら嫌だったはずです。僕らもそう。僕ら「若松プロ」と関係ない人たちによって、若松孝二をドラマ化されていたら許せなかったと思います。それこそ、若松さんの言った「ぶっ殺したいヤツ」になっちゃいますよ(笑)。『実録・連合赤軍』以降の若松さんの作品は新さんあってのものだったので、そもそも新さん以外に頼める俳優はいませんでしたね。

──若松監督のファンで、『止め俺』に出たかったという俳優はきっと多いでしょうね。

白石 だと思います。ごめんなさいと謝るしかありません。でも、奇跡と言っていいくらいのキャストがそろいました。足立正生役の山本浩司さんは、足立さんの監督作『断食芸人』(16)に主演していて、足立さんと共に物づくりを経験していた。雰囲気がすごく似ていると思います。ガイラ役の毎熊克哉さんもそっくり。実はガイラさんからは「俺の息子を使ってくれ」と頼まれたんですが、年齢がちょっと上だったので断ってしまいました。オバケこと秋山道男さんを演じたのは、『実録・連合赤軍』で加藤少年役を演じたタモト清嵐くん。当時14歳ながら、しっかり若松さんの薫陶を受け、今も芝居を続けてくれていたことがうれしかったですね。

大島渚(高岡蒼佑)が率いる「創造社」にも、『ウルトラマン』(TBS系)の脚本家・佐々木守など多彩な人材が集まっていた。

■若松孝二が残してくれた財産とは……!?

──大島渚監督は、のちに世界的なセンセーショナルを呼ぶ『愛のコリーダ』(76)のプロデュースを若松監督に依頼するなど、2人は深い信頼関係で結ばれていた。若松監督の遺作『千年の愉楽』(13)に出演した高岡蒼佑が大島渚役に。

白石 大島渚さんを誰に演じてもらうかは、なかなか決まりませんでした。今回の登場人物たちの中で、いちばんカリスマ性が求められますから。いろいろ考えていく中で、『千年の愉楽』に高岡さんが出ていたことを思い出したんです。簡単には引き受けにくい役だったと思います。似てるか似てないかで言えば、似ているわけではありません。でも、やっぱり雰囲気の問題なんですよね。高岡さんは希有な俳優なんで、もっと活躍してほしいですよ。

123
ページ上部へ戻る

配給映画