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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.498

ひと言でも口を開くと、確実に死が訪れる恐怖!! 『クワイエット・プレイス』は圧力社会の比喩!?

エミリー・ブラント主演の恐怖映画『クワイエット・プレイス』。全米で今年4月に公開され、記録的なメガヒット作となった

 新しいタイプの恐怖映画が、米国では次々とヒットしている。SEXに伴う不安感・罪悪感が具現化して付きまとう『イット・フォローズ』(14)、デトロイトのリアルな荒廃ぶりを描いた『ドント・ブリーズ』(16)、人種問題をホラー設定に巧みに置き換えた『ゲット・アウト』(17)など。どれも低予算で若手監督が撮り上げたものだが、米国社会に潜む恐怖をヒリヒリと感じさせる。『ボーダーライン』(15)などのヒット作で知られる人気女優エミリー・ブラントが主演し、夫である俳優ジョン・クラシンスキーが監督した夫婦共演作『クワイエット・プレイス』も米国民が感じている恐怖を映画の世界に移し替えたものとなっている。

 人類のほとんどが死滅し、荒れ果てた近未来が舞台。エヴリン(エミリー・ブラント)&リー(ジョン・クラシンスキー)夫妻と子どもたちのアボット家は、お互いに助け合いながら辛うじて生き残っていた。冒頭からエヴリンもリーも誰ひとり、言葉を発しようとしない。ちょっとした物音を立てることにもナーバスになっている。それは何故か? 少しでも音がすると、正体不明の“ヤツ”が現われ、逃げる暇もなく瞬殺されてしまうからだ。人類が滅亡の危機に瀕しているのは、ヤツのせいだった。どんなに悲しい目に遭っても、楽しいことが起きても、アボット家はひと言もしゃべることを許されなかった。

 大みそかに放映されるバラエティー特番『絶対に笑ってはいけない24時』(日本テレビ系)のように、ちょっとでも声を漏らすと即、死が待っている。そのため聴覚障害を持つ長女リーガン(ミリセント・シモンズ)をはじめ、アボット家は全員手話を使ってコミュニケーションを図っている。手話を介することで、一家は生き延びることができたのだ。トウモロコシ畑が広がる郊外の廃屋敷で、静寂を友として暮らすアボット一家だった。

リー(ジョン・クラシンスキー)たち一家は、ヤツの襲撃を恐れて、ひと言も会話をすることなくサバイバル生活を続ける。

 音を出さないように裸足で歩くなど入念に気を付けているものの、逃れようのない大きな問題が浮上する。エヴリンとリーが無言で愛し合った結果、エヴリンは妊娠し、日に日にお腹が大きくなっていく。家族がひとりでも増えることは喜ばしい。だが、声を出すことなく出産することは可能なのか。赤ちゃんはどうやって育てるのか。そもそも、異常なまでに聴覚の優れたヤツは一体何者なのだろうか?

 困難な状況を克服する家族愛の物語である本作だが、ここで描かれる“クワイエット・プレイス”とは現代社会の比喩でもあるようだ。民主主義、人権の尊重を謳いながらも、本当の意味の民主主義は形骸化してしまい、今の社会は同調圧力が働き、自由な発言はできなくなりつつある。不用意な発言をしようものなら、クレイマー扱いされ、コミュニティーから排斥されかねない恐れがある。みんなが押し黙った世界では、権力者たちの発言だけがまかり通っていく。忖度することが当たり前となっているのは安倍政権下の日本だけでなく、米国も似たような状況になりつつあるらしい。

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