消滅した売春街「真栄原新町」と沖縄の「もうひとつの戦後史」
#本 #沖縄
「レイプ魔」と化した米兵たちの横暴におびえる一方、食うや食わずの毎日の中で、最底辺の生活を強いられた戦争未亡人たちの中には、生きる手立てとして米兵相手の売春を選んだ者も少なくなかった。当時、「売春は必要悪」「売春婦が犠牲になって米軍を引き受けているから、一般の婦女子は被害者にならないで済んでいる」と言われ、普天間飛行場に隣接する真栄原地区でも、50年代に米兵相手の売春が横行。そのため、周囲の環境に配慮して売春街が設置された。「性の防波堤」として、売春地域を人為的につくることによって、米兵のレイプ事件を抑止しようとしたのだ。そして、真栄原新町は、いつしか数多くの日本人が利用する売春街へと姿を変えていく。
藤井氏は、あとがきでこう語っている。
「売春街の歴史は、壮絶な地上戦に巻き込まれ、甚大な被害を強いられた沖縄の、戦後の歩みと深く呼応しあっており、現在も日本国内の米軍基地の総面積の75%が集中する沖縄の現実と不可分の関係にあるのだ。私が売春街に出入りするようになった当初の思いを遥かに越えて、本書は、日本とアメリカの間で翻弄され続けた沖縄の一断面を、夜の世界を通じて描き出すことになった私は『反戦・反基地・平和』といった自分のなかの沖縄イメージが解体される感覚とともに夜の街に踏み込み、しかしその地と人を依然として強く規定し続ける『戦争』の影を改めて見出すに至ったのである」
翁長雄志知事の死去に伴って、9月30日には沖縄県知事選が実施されるが、玉城デニー氏、佐喜真淳氏のどちらの候補が勝利するかによって、辺野古基地移設問題やアメリカ軍、そして日本政府との関係も大きく変わることが予想される。本書には、基地問題も、戦争の悲惨さも記述されていない。しかし、売春という「恥部」を通じてこの島の歴史を見ることで、沖縄が直面するもうひとつの現実を目の当たりにすることになる。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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