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アメリカ兵 によるレイプ事件から婦女子を守るため……

消滅した売春街「真栄原新町」と沖縄の「もうひとつの戦後史」

沖縄アンダーグラウンド

 かつて「真栄原新町」と呼ばれる街が、沖縄に存在した。

 移設問題で揺れる普天間基地のすぐ近くにあるこの街では、「ちょんの間」と呼ばれる売春宿が営業しており、アルミサッシのガラス戸の中には、女性たちがマネキンのように展示されていた。男性客は気に入った女性を見つけると奥の小部屋に入り、15分5,000円で彼女たちを買う。もちろん、「本番」を含んだ料金だ。しかし、2010年以降、警察や市、女性団体などが徹底して行った「浄化作戦」によって、この街は壊滅へと追いやられていった……。

 ノンフィクションライターの藤井誠二氏は、真栄原新町を中心に沖縄の売春を見つめ、『沖縄アンダーグラウンド』(講談社)を上梓。その丹念な取材から見えてきたのは、沖縄の「もうひとつの戦後史」だった。

「真栄原新町」という名前が全国に知られるようになったのは、15年ほど前から。風俗雑誌やインターネットを中心として徐々にその名が広がっていき、地元の男たちだけでなく、観光客、自衛隊員、スポーツ選手、芸能人など、さまざまな男たちでにぎわいを見せた。かつては200店舗以上の売春宿が立ち並び、常時300~400人ほどの女性たちが客を待ったという。

 そんな街の在りし日を記録するために、藤井氏は女性たちや経営者、店舗を貸す大家、ヤクザらだけでなく、この街を「浄化」した側である警察関係者、女性団体など、売春を取り巻く人々を取材した。

 女性たちは、簡単に稼げるアルバイトとしてちょんの間へと流れ着いたり、内地から借金を抱えて流れ着く、あるいはヤクザによって「沈められる」など、それぞれに事情を抱えながら体を売っていた。真栄原新町付近が地元という40代の女性は、男に貢ぐ金を闇金で借りたために、この街で働き始めた。毎日20人以上を相手にし、月に200~300万円もの大金を稼いだ彼女は、すぐに借金を返済。その後も仕事を続けて金をため、売春宿の経営者へ転身した。一時、顔バレしそうになったために街を離れたものの、友人が作った2,000万円の借金の保証人となり、再び舞い戻ることとなる。

 また、那覇が地元のリエという女性も、友人が作った借金の保証人として1,000万円の負債を背負い込んだ。個人売春を斡旋している男は、彼女たちが置かれた境遇をこう語る。

「内地の人からは、沖縄は血縁関係の身内意識がしっかりしているから、家族同士の面倒見は手厚いだろうと思われがちですが、実際はそうではないんです。内側のまとまりが強すぎて、少しでもそこから外れた女の子は逆に強くはじき出されてしまうんです。売春や水商売についた子は一族の恥と言われて、切られてしまう傾向もある」

「ゆいまーる(助け合い)」という言葉が象徴する強い共同体からはじき出された女性たちは、売春街で身を寄せ合って生きる。そのため、互いが支え合い、借金の保証人となり合いながら泥沼へとハマっていく……。真栄原新町で生きた女性たちの多くの行方は定かではないが、今でも、那覇をはじめとする各地で体を売っているとうわさされている。

 では、そんな売春街は、どのように成立してきたのか? 資料や証言をもとにして藤井氏が描き出すのは、沖縄の戦後史と売春の、切っても切り離せない関係だった。

 1945年、9万人以上の民間人が犠牲となった壮絶な地上戦の後にも、沖縄には過酷な現実が待ち構えていた。沖縄を占領したアメリカ軍は、住民に対して強盗、暴行致死、車で轢き殺すといった「鬼畜」という言葉にふさわしい振る舞いを行った。さらに、女性たちが特に恐れていたのが米兵によるレイプだった。父親の目の前で少女を強姦、食べ物を与えるといって基地内に連れ込み輪姦、畑仕事の最中に拉致されて強姦……。米兵が来ると、村人たちは半鐘を鳴らし、息を殺して彼らが通り過ぎるのを待つこともしばしばだったという。72年の本土復帰以前に起きた米兵によるレイプ事件は確認されているだけでも500件以上に上るが、実際にはその数十倍もの事件が握りつぶされており、その実数は1万人以上と記す資料もある。

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