藤本美貴の食洗器CMに批判、なぜ「ママ」というワードは炎上するか
9月1日より放送中のユニバーサルホームの新CM『ちょっと待ってね』篇が、SNSで波紋を呼んでいる。“ママの家事を楽にする住まい”をコンセプトに、<毎日慌ただしくしているママの家事負担が軽減され、子どもとふれあう時間、夫婦の時間など、「家族との時間」が増える暮ら>を表現したというこのCMだが、結局のところ“家事はママの仕事”という規範を強化するものになっていないか、という疑問につながるからだ。
そのCMはわかりやすい内容だ。藤本美貴(32)演じる母親は家事に忙殺され、子どもの「ママ遊ぼう!」「ママ読んで!」といった要求に対して「ちょっと待ってね」と繰り返していたが、新居に移り食洗器を導入してからは子どもに「ママ」と呼ばれるとすぐに「遊ぼうか」と応じられるようになり、子どもは「やったぁ!」と喜ぶ。父親(夫)が母親(妻)に「『ちょっと待ってね』って言わなくなったね」と微笑む……というストーリー。
ラストの父親の台詞「『ちょっと待ってね』って言わなくなったね」に対して、Twitterでは「『お前が洗えばいいんじゃ』と思った」「全く共感できない」「お前が家事手伝うか娘の相手してあげる選択肢はなかったのか」など、批判や不快感を示す声が続出した。家事に取り組む気がなさそうな父親の描写に「心霊現象なのでは?」「まだ子供との関係性ができてない再婚相手なんだろうな」という皮肉もある。
CMやPR動画の炎上が相次いだ昨年、紙おむつ「ムーニー」や「牛乳石鹸」の動画も、そこで描かれる家族観がアップデートされていないことについてネット上で批判を受けていた。
ユニバーサルホームでは、9月1日~9月30日にかけて「名前のない家事を解決!」というテーマで「秋得フェスタ」キャンペーンを開催中で、新CM『ちょっと待ってね』篇もその一環である。公式サイトではこのようなメッセージが掲載されている。
<「ごはんをつくる」「ゴミを捨てる」という家事の中にも、献立を考えたり、家中のゴミをまとめたり……日常に少しずつ存在しているけれど、その作業を家事だとなかなか認識されない“名前のない家事”。日本の女性の平均家事時間は、一日【2時間24分】とも言われていて、ママは毎日大忙しです。>
<そんな『名前のない家事』を、間取りや収納、ちょっとした住まいの工夫で解決したい!ユニバーサルホームはそんな想いから、この秋、毎日忙しいけれどいつでもとっても素敵なママ・藤本美貴さんと一緒に、全国の子育て家族を応援します!>
共働き家庭が増加しているとはいえ、男性よりも女性の家事時間が長いという現状があり、新CM『ちょっと待ってね』篇には、<毎日大忙しのママ>の負担を軽減したいという想いが詰まっているのだろう。家事の負担を軽減するユニバーサルホームの商品展開に文句をつける気もまったくない。しかし、“家事はママの仕事”というジェンダーバイアスありきのPR手法には首を傾げる。
こうしたPRの際に、いちいち「ママ」「お母さん」あるいは「パパ」「お父さん」等の言葉を使わずに、つまり誰がどのような家事(育児も)をしているのか役割をあてはめないで宣伝すれば良いのに、なぜ未だにそうしたフレーズを使ってしまうのだろうか。
たとえば「ママ」という単語を広告などで迂闊に使用するのは、地雷を踏みに行くようなものだと思う。なぜならそうした広告は家事育児を「ママの責任」にしがちで、「ママを応援する」と謳いながら「ママ」に罪悪感を与えるようなものになりがちだから。そしてママ以外の人をその事象から無関係な存在にしてしまいがちだから、だ。
今年6月、「アカチャンホンポ」のお尻拭きパッケージ側面に「全国のお母さんを応援します」と書かれていたことに疑問を抱いたある女性が、パッケージのメッセージ変更を要望する署名を集めたことが話題となった。署名を受けて同社はパッケージのメッセージ変更を決定した。
これに「実際に育児をしているのはお母さんなのに、変なクレーム」と眉をひそめる人も多いことは知っている。しかし育児をしているのはお母さん“だけ”ではないし、お母さん以外の関係者も当たり前に育児に関わるよう、社会が認識を変えていくべき時期に差しかかっている。家事もそうだ。女性がひとりで仕事も家事育児も担うのはどうあがいても無理で、少子化対策だの労働力不足だの1億総活躍だのと叫ぶなら「女性に複数の役割を押し付ける社会」からの脱却が必要だろう。「仕事の責任は男性が負うもの」という認識も同時進行で変化して、性差別の解消につながればいい。無意識に私たちの生活に染みこんでいるジェンダーバイアスから自由になり、凝り固まった偏見をほぐしていこうという取り組みに、理解がほしい。
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