貯蓄ゼロ世帯が増加 年収800万円でもお金が貯まらない人と、年収400万円で貯まる人の違い
世の中にはお金が貯まりやすい人と、貯まりにくい人がいる。一般には年収が高いほうがお金が貯まりやすいはずだが、現実はそうでもない。年収400万円でもしっかり貯蓄ができる人がいる一方、年収800万円でも貯蓄ゼロという人は珍しくない。この違いはどこから出てくるのだろうか。
貯蓄ゼロの世帯が増えているのは日本が貧しくなっているから
金融広報中央委員会の調査によると、2017年における金融資産を保有していない世帯の割合は31.2%となっている。この数字は年々上昇しており、貯蓄がない世帯は着実に増加している。
貯蓄ゼロ世帯が増えているのは、日本が以前と比べてすっかり貧しくなってしまったからである。過去20年の間に、世界経済はめざましい成長を遂げ、先進各国のGDP(国内総生産)は1.5倍から2倍に、新興国は2倍以上に拡大した。しかし同じ期間、日本だけがGDPがほぼ横ばいという状況が続いてきた。
1人当たりのGDPはほぼ平均年収に近いと考えてよいので、国を社員にたとえれば、日本人という名の社員は年収が据え置きで、残りの社員は皆昇給したようなものと思えばよい。当然、モノの値段というのは、昇給した社員の平均水準に合わせて上昇するので、日本人が買えるモノの量は以前よりも少なくなってしまった。
日本国内にいるとあまりピンとこないのだが、米国では大卒初任給が40万円を超えることも珍しくない。年収が480万円の人と200万円の人とでは、同じ1台200万円の自動車を購入する際の負担が違うのは当たり前のことである。
年配の人によく見られるのだが、その気になれば、お金は貯められるものだと主張する人がいる。だが、彼らは日本経済の現実についてよく理解できていない。いまの日本は、普通の生活をしていては、そう簡単に貯蓄できない社会になっている。こうした状況では、たとえ年収が800万円あったとしても、何もしなければそのまま消費に消えてしまう可能性が高いのだ。
こうした中で、確実に貯蓄をしていくためには、緻密な戦略と、それを実行していく覚悟が必要となる。
支出を細かくチェックすることは、労多くしてメリットが少ない
収入が一定であるならば、貯蓄の原資をひねり出すためには支出を抑制するしかない。お金を貯める第一歩は、自分の支出の構造を知ることである。
ここで家計簿をつけてみようかと思った人はちょっと待ってほしい。確かに家計簿をつけたり、支出を細かくチェックすることは大事かもしれないが、この作業は労多くしてメリットが少ない。大事なのは1円単位まで細かく管理することではなく、大雑把でよいので、自分が何に対していくら支出しているのか、その全体像を把握することである。
会社員の人なら、額面の収入から税金や保険料などが差し引かれた金額(いわゆる手取り)が自分の口座に振り込まれているはずだ。多くの人は、税金や保険料には目もくれず、口座に入ったお金から思考をスタートしてしまうのだが、これが間違いの元である。
税金や保険料は大きな支出項目のひとつなので、まずこれらにどの程度、支出しているのかしっかり把握しておく必要がある。たとえば年収が500万円のビジネスパーソンなら、所得税は15万円くらい、地方税は25万円程度になっている可能性が高い(控除の金額によって異なる)。また年金や医療の保険料は約72万円といったところだろう。
合計すると年収が500万円あっても、税金や保険料で112万円程度が自動的に差し引かれているはずだ。
こうした公的負担の割合は、年収が上がっても同じというわけにはいかない。日本は累進課税となっており、所得が多い人ほど税率が高い。所得税だけを見ても、全体のわずか4.3%しかいない年収1000万円以上の高所得者が、給与所得者が支払う所得税全体の50%を負担している。日本ではお金を稼げば稼ぐほど、損をする仕組みになっているのだ。
つまり、年収が2倍になったからといって、手取りの金額は2倍にならないので、高額所得者ほど効率が悪くなる。このカラクリに気付かないまま、所得が増えた分だけ消費を増やしてしまうと、たちまち家計は火の車となってしまうだろう。
年収が800万円もありながら、貯蓄がゼロという人は、年収増に伴って増えてくる公的負担を考慮に入れないまま支出している可能性が高い。
家計の三大支出は、家、クルマ、保険
一連の税制上の仕組みを考えた場合、年収は600万円程度にとどめておき、その中で可能な限り貯蓄に励み、ある程度の資金が貯まったらこれを適切に運用するというのがもっとも効率のよいマネーライフということになる。
では、600万円程度の収入で、支出を最小限にとどめておくにはどうすればよいだろうか。もっとも重要なのは、家計における最大の支出項目について把握することである。
たいていの場合、家計でもっとも支出額が多いのは、家賃、クルマ、保険の3つである。
賃貸の場合には、会社までの交通費や通勤時間などを考慮に入れて、もっともコスパの高い場所を選定すべきだろう(通勤費の補助が会社から出るからといってそれに頼るのは危険だ。あくまで移動は自費を前提に考えた方がよい)。今後はシェアリング・エコノミーの進展で、所有するモノを極限まで減らすことが可能となる。家のスペースはできるだけ狭くして、その分だけ家賃を浮かすことを考えたほうがよい。
子どもができたことをきっかけにマンションの購入を検討する人もいるが、子どもがいるからといって、むやみに広い物件を買うのはあまりオススメできない。子どもはせいぜい二十数年で家を出て行ってしまう。その後は夫婦だけになるので、狭くても利便性を最優先したほうがよいだろう。利便性のよい場所に新築物件はないことが多いので、中古マンションの購入についても、当然、視野に入れるべきである。
共働きは最強のリスクヘッジ手段
便利な場所に住むことができれば、クルマを所有する必要がなくなるというメリットも享受できる。最近ではカーシェアリングが普及しているので、貯蓄を優先するのなら、今後はクルマの所有はできるだけ避けたほうがよいだろう。家賃とクルマのコストは表裏一体となっているので、別々には考えないほうがよい。
保険についても、何のリスクに対していくらの保証が必要なのか再検討してほしい。夫婦共働きというのは、実は保険などとは比較にならない最強のリスクヘッジ手段となり得る。もし夫婦の年収がほぼ同じなら、万が一、どちらかが亡くなっても、生活がいきなり破綻する可能性は低い。
いくら保険金をもらっても、そのお金で一生働かずに過ごすことはできないので、結局は、それなりの収入が得られる仕事を探す必要に迫られる。そうであるならば、夫婦間の年収格差を減らす努力を日常的に行っているほうが、高額の保険に入るよりも効果が大きい。
税金、家賃、クルマ、保険という大きな支出を可視化し、状況に応じて最適化することができれば、これからの時代においても「貯蓄ができない」といった事態には陥らないはずだ。後は余裕資金をどのように増やすのかという、前向きな悩みに取り組んでいけばよいだろう。
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