姿を見せないスナイパーから標的にされる恐怖!! 北村龍平監督が皮膚感覚で撮った『ダウンレンジ』
#映画 #パンドラ映画館
本作のアイデアを思いついたのは、香港で活躍するジョニー・トー監督のもとでキャリアを積んできた脚本家ジョーイ・オブライアン。彼の才能を高く買う北村監督と2~3時間ほどアイデアのキャッチボールをすることで、ストーリーが出来上がったという。時間を要するハリウッドスタイルではなく、『ヴァーサス』同様に北村監督自身がプロデュースする形で一気に撮り上げてしまうことにした。キャストは無名の若手俳優たちをオーディションで抜擢しているので、誰が死に、誰が最後まで生き残るかまったく予測できない。
製作の際に北村監督がこだわったのは、SUVを襲うスナイパーを正体不明にするということだった。『激突!』『ヒッチャー』や『ハロウィン』(78)に登場する殺人鬼マイケル・マイヤーズのように、人間か人間ならざるものか分からない存在にしたかったからだ。
北村監督「この企画をハリウッドの知り合いのプロデューサーに話したら、みんな面白がってくれた。そして言われたのが『この企画をより面白くし、確実にヒットさせるアイデアがある。それはスナイパーの頭にターバンを巻くことだ』と。イスラム系のテロリストを思わせる格好にすれば、ハリウッドの映画会社も動いてくれたかもしれない。でも、それでは僕が撮りたい映画ではなくなってしまう。今回は『ヴァーサス』の頃のスタイルで貫こうと。20年来の知り合いである真木太郎プロデューサーに国際電話して即OKをもらい、途中で『ルパン三世』を挟みましたが、ハリウッドに戻って脚本を仕上げ、半年ほどで撮影に入ることができたんです」
銃社会の恐怖を描いた本作だが、どこにいるのか分からない敵という存在には、北村監督がハリウッドでリアルに感じている不安感や恐怖心も加味されているように思える。
北村監督「日本の映画界にもうさん臭いヤツがいっぱいいますが、ハリウッドは次元が違う(苦笑)。それこそ、ハリウッドは魔界です。僕のハリウッドデビュー作『ミッドナイト・ミートトレイン』は全米2,000館以上で公開される予定だったのが、当時ライオンズゲート社のトップに就任したジョセフ・ドレイクの独断でお蔵入り寸前になった。ジョセフは『ゴジラFINAL WARS』のハリウッドプレミアのパーティーに駆け付け、『ハリウッドで一緒にやろう』と声を掛けてくれた友達だったのに、『ミッドナイト──』のプロデューサーを務めたピーター・ブロックと確執があって、『ミッドナイト──』を抹殺しようとした。僕の知らないところで、プロデューサー同士のケンカに巻き込まれてしまった。今ではジョセフも『あのときはリュウヘイには済まないことをした。あの映画はあんな扱いを受けるべきではなかった』と言っていると、いろんなところで耳にしますが、まぁ今さら謝られてもね(笑)。それでも僕はまだ、ハリウッドでサバイブして映画を撮り続けている。映画づくりはどの国だろうがどの規模でも、いつだってチャレンジの連続。ハリウッドでの闘い方がようやく身に付いてきたところ。これから、もっとエッジの効いた作品をつくっていきますよ」
気がつけば、ハリウッドで映画をコンスタントに撮り続けている日本人監督は北村監督だけになってしまった。魑魅魍魎が跋扈するハリウッドで、どうサバイブしていくのか。北村監督の生き方と作品内容は、見事なほどにリンクしている。
(文=長野辰次)
『ダウンレンジ』
監督・脚本/北村龍平 脚本/ジョーイ・オブライアン
出演/ケリー・コーネア、ステファニー・ピアソン、ロッド・ヘルナンデス・フェレラ、アンソニー・カーリュー、アレクサ・イエームス、ジェイソン・トバイアス
配給/ジェンコ 配給協力/エレファントハウス R15+ 9月15日(土)より新宿武蔵野館、22日(土)より大阪第七藝術劇場にて公開
(c)Genco All Rights Rsereved.
http://downrangethemovie.com
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