出張ホスト、ウリセンボーイ、ニューハーフヘルス嬢……男たちはなぜ体を売る?
#本
「『この人ならわかってくれる』『この人じゃないと駄目』というのがあるから、俺は出張ホストとしてなんとか続いている。俺もそれに答えたいし、相手の信頼以上に返したい」
出張ホストは、決して体だけでは成立しない。責任感や、仕事へのプライド、そして相手の感情を察知するコミュニケーションスキルなどがあって、初めて成り立つ仕事なのだ。
一方、新宿2丁目で働く、ウリセンボーイたちへのインタビューからは、「男娼」が持つ別の側面が見えてくる。
近年、「稼げない」とため息をつくボーイたちが多い中、最高月収はなんと180万円、稼げない月でも「平均して50万から100万の間」というこのウリセンボーイは、わずか3カ月で300万円の借金を返済してしまった売れっ子。
恵まれた容姿を持つだけでなく、どんなプレイにも対応でき、愛想がいい……と 売れる条件のすべてを兼ね備えている彼。しかし、その言葉からは、彼の抱えている「闇」が見えてくる。そもそも、セクシャリティとしてはノンケである彼が、ウリセンボーイという仕事を続けられるのは、幼い頃から、母親によって虐待といえるほどの罵声を浴びせられてきたことに関係するという。
「母親にいろいろと言われてきたのもあって、(自己)評価は低いですね。小さい頃から『馬鹿』と言われてきたから、本当に自分は馬鹿なんだと思っていたし、『死ね』と言われれば死んだほうがいいのかなと思うじゃないですか。そういう思考回路でずっと生きてきたんで。自己評価が低いからウリセンでは逆にいろいろな挑戦ができるのかなと思います」
そんな生い立ちが、どんなプレイにも対応できるというウリセンとしての最大の魅力を彼に与えている。掘られている瞬間に、彼は次のように考えているという。
「掘られているときは、あぁ、いってえと思ってます。あと何分ぐらいだろう、そろそろいくかなって。本当、冷めてますね。業務的なんですね」
しかし、彼は、この道を選んだことを後悔しているわけではない。収入も高く、リピーターも多数獲得している彼は「ウリセンに出会えてよかったと思います」と、あっけらかんと語っている。「ゆくゆくはウリセンで得た金で、何かの店を持ちたい」という彼は、希望を胸にしながら体を売っているのだ。
すべてのインタビューを終え、その実感を中塩氏はこう記している。
「まさにこれが今、私たちが生きている世界なのだろう。ひどく納得がいくわかりやすい共通点など見当たらず、想像範囲内の現実などなく、枠組みでは収まりきれない性と人生があった。すでにわたしたちは多様な世界を生きている。だからこそ私たちはもっと自由に生きていいし、自由に生きたいと願う他者の希望を摘んではいけないし、自由を守るために他者への思いやりと想像力を欠いてはならない」
「男娼」というと、その「快楽」や「後ろ暗さ」だけに焦点を当てて取り上げられることもしばしば。しかし、その世界をつぶさに観察すると、買う側にも売る側にも 、それらの言葉に収斂させることのできない複雑な感情が見えてくる。
(文=萩原雄太[かもめマシーン)]
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