原作で描かれた運命に、実写版すずは抗えない!? 過酷すぎるお別れ『この世界の片隅に』第6話
#ドラマ #TBS #松坂桃李 #どらまっ子 #この世界の片隅に #松本穂香
昭和20年(1945)3月19日は、広島県呉市が初めて空襲に遭った日です。軍港のある呉市は米軍の標的とされ、その後も繰り返し爆撃されることになります。こうの史代原作コミックの実写ドラマ化『この世界の片隅に』(TBS系)の第6話。幸せと哀しみが折り重なる日々を、主人公すずとその家族はどのように過ごしたのでしょうか。第6話を振り返りたいと思います。
(前回までのレビューはこちらから)
戦争中でも季節は移り変わり、呉市に春が訪れました。すず(松本穂香)が嫁入りした北條家では、夫の周作(松坂桃李)をはじめ、みんなで花見に出掛けることになります。戦時中でも、いや戦時中だからこそ、多くの人が桜を見に集まっていました。来年も花見できるとは限りませんから。周作には、同僚の独身男・成瀬(篠原篤)と隣に住む幸子(伊藤沙莉)を引き合わせようという計らいもありました。すずと義姉の径子(尾野真千子)が用意した重箱を開けた姪っこの晴美(稲垣来泉)も「お寿司じゃ、大好き!」と大喜びです。
花見客の人混みの中ですずは例のごとく迷子になり、遊女の白木リン(二階堂ふみ)と再会します。お得意さんに誘われたリンは、この日はいちだんと艶やかな着物姿です。満開の桜の木に登ったリンとすずは、しばし地上を離れて女2人だけの幽玄美溢れる世界を過ごすのでした。
前回、すずがザボンをプレゼントした遊女のテル(唐田えりか)は風邪をこじらせて、肺炎であっけなく死んだそうです。すずの兄・要一のように異郷の戦場で玉砕死を遂げる兵士もいれば、日常の生活の中で病死する者もいます。「人が死ねば記憶も消え、秘密もなかったことになる。それはそれで贅沢なことかもしれんよ」とリンは笑顔で語ります。何と達観した死生観でしょう。
リンと周作が以前は恋仲だったことをずっと気にしていたすずですが、リンは過去にも未来にも囚われず、刹那的にその瞬間瞬間を生きている女性のようです。平凡なすずとはまるで価値観が違います。すずは子どもの頃に祖母(宮本信子)の家で天井裏に住む座敷わらしと出逢っていますが、リンは本当に座敷わらしなのかもしれません。この世のものとは思えない、妖しい美しさを放っています。「またね、リンさん」と呼び掛けるすずに、リンは笑って答えません。原作ではリンとすずが会うのは、これが最期になります。
■実写版すずが最後にスケッチしたもの
運命の日は刻々と近づいてきます。花見からしばらくすると、周作の父・円太郎(田口トモロヲ)が勤めている軍需工場が爆撃されました。円太郎は行方不明となってしまいます。さらに文官だった周作は武官になることを命じられ、軍事訓練のために3カ月間家を離れることになりました。本土決戦も近いというのに、北條家は女性だけになってしまいます。
「すずさん、大丈夫かのう。この家を守れるかのう」と、すずの右手を握って心配する周作。原作&劇場アニメ版のファンは、すずの手が映し出される度に切なくなります。一度は「絶対無理です」と拒絶するすずでしたが、周作の背中の何と淋しそうなことでしょう。周作もすずや家族と別れるのがつらいのです。「ごめんなさい、嘘です」「この家を守ります。この家におらんと、周作さんを見つけられんかもしれん」と周作の背中に抱きつくのでした。別れの朝となり、すずは周作の寝顔をせっせとスケッチします。すずが自由に絵を描ける日も、もう残りわずかです。
すずは明るく周作を見送ります。ドラマも後半戦となり、夫婦役の松坂桃李と松本穂香の2人の息が合い、原作にはないアドリブっぽい台詞のやりとりも交わすようになってきました。岡田惠和の脚本は、原作にないオリジナルシーンが多いことが物議を呼んでいますが、別の意味でそのことには密かに期待を寄せていました。実写版はもしかしたら、原作&劇場アニメ版とは異なる展開にならないかと。タフさを徐々に身に付けつつある実写版のすずは、原作によってあらかじめ決められた運命を覆してくれないだろうかと。
しかし、そんな願いも虚しく、呉市に夏が訪れます。昭和25年(1945)6月。円太郎は負傷して海軍病院に入院しており、生命には別状がないことが分かりました。円太郎の妻・サン(伊藤蘭)は笑いながら涙をこぼし、夫の無事を喜びます。花見で成瀬と顔合わせした幸子は、周作と一緒に軍事訓練に向かった成瀬が戻ってきたら、祝言を挙げることになりました。女たちはそれぞれの幸せを噛み締めるのでした。そんな中、径子の長男・久夫が疎開している山口県下関まで、径子は晴美を連れて会いに行くことにします。切符を求める人たちで駅は行列ができていました。いつ列車に乗れるか分かりません。行列に並んだ径子は見送りにきていたすずに、晴美と一緒に円太郎のお見舞いに行ってほしいと頼みます。すずと晴美が仲良く手を繋いで病院に向かう途中、不吉な空襲警報が鳴り響くのでした。
この後のシーンに触れるのは、しんどいです……。町の共用の防空壕に入らせてもらい、すずと晴美は空襲の直撃を逃れます。防空壕を出た2人は水を飲み、ホッとひと息つくことができました。ここで、ふいにカメラはアングルを変え、すずの不安定な目線で空襲に遭った街を映し出します。「すずさん、今度は私を描いてね」とかわいくお願いする晴美の後方には、米軍機が落としていった不発弾が地面に突き刺さっています。すずが「危ないッ」と晴美の手をぐいと引っ張った瞬間、画面全体が真っ白になるのでした。
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