脳を痺れさせるショック療法 太田竜『辺境最深部に向って退却せよ!』
#雑誌 #出版 #昼間たかしの「100人にしかわからない本千冊」
先日、伊達政保さんと知己になった。「図書新聞」にて文化コラム「カルチャー・オン・ザ・ウェッジ」を連載している評論家だ。
甲府であった竹中英太郎と竹中労の父子を偲ぶイベントの後の懇親会の時である。会場にいた雰囲気のある人物を見て「この人は、きっととんでもない人に違いない」と思ったわけだ。
その時は少しお話をして、引き出しの多さを知ったわけだが、後ほど名前をネットで検索してみた。すると見つかるウィキペディアの記述。
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ジャズ現場との繋がりで、山下洋輔を会長とする「全日本冷し中華愛好会(全冷中)」に参加。
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お、やっぱりなかなか魅力的な人物ではないか。でも、その次の記述には仰天した。
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1984年(昭和59年)に新宿区役所で不当配転に抗議して新宿区長室で切腹。
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痺れるね。こんな己の命を燃やすことに賭けている人が、もっと評価される世の中が、きっとまた来ると信じたいネ!!
さて、その後再び、伊達さんと相まみえる機会があったのだけれど、その時、なぜか話に出たのは太田竜のこと。
伊達さんは言うのだ。
「太田の晩年の著書『長州の天皇征伐』(成甲書房)は、ユダヤ陰謀論のところを除けば読むべきものがある……」
これは驚いた。でも、読まなければならないような気がした。
気がつけば太田竜が世を去ってから、来年で十回忌。もう、その名前を知る人も次第に少なくなっているかも知れぬ。
その言説で人を巻き込み、踊らせて、世の中を騒がせた巨人である。やっぱり、ウィキペディアには長い記述があるけれど、大抵の人は「この人は大丈夫か?」と思うはず。
その生涯の業績はあちこちに飛ぶ。共産主義者として黒田寛一(のち革マル派議長)らと共に革命的共産主義者同盟(革マル派)を結成。日本の新左翼の源流をつくる。そこから、マルクス主義とは決別し、竹中労・平岡正明らと共に「世界革命浪人」と自称して、やっぱり決裂。
その先にたどり着いたアイヌ革命論、窮民革命論などなど、独自の革命理論に影響された若者たちは三菱重工ビルに爆弾を仕掛け、北海道庁も吹き飛ばす。
体制や市民の側からすれば、恐るべき「テロリストの教祖」。
ま、ここまではついていけるか……いけないような気もする。それでもダメだとたどり着いたのは、環境保護運動。勝手に「グリーンピース(の日本支部)」を名乗ってみたり「人類独裁の打倒によるゴキブリの解放・ネズミの解放・ミミズの解放を!」という超絶エコロジーへと思想は飛ぶ。
90年代に入るとユダヤ陰謀論を本気で唱え、フリーメーソンやらイルミナティの陰謀を熱心に語り出す。
現在、手に入りやすい本としては『永遠の革命家・太田龍追憶集』(柏艪舎)があるのだけれど、その思想の変遷ごとに関わった人が思い出を書いているから、一種の奇書という扱い。
でも、そんな奇矯な人物を「勉強しすぎて、どうかしちゃった人」と切って捨てることは、やっぱりできないのだ。
だから、オイラの座右の書の一つに太田の代表的著作『辺境最深部に向って退却せよ!』(三一書房)は、常にある。
それはなぜかって? そこには、壮大なロマンが描かれているからだ。この中で太田が描くのは「世界ソビエト社会主義共和国」を実現するための革命理論。それを実現するための方法を、熱く熱く語り抜いているのだ。初版は1971年だから、まだアポロ11号が月に到達して間もない時代。
そんな時代にもかかわらず、太田の革命戦略には宇宙軍の必然性までもが記されている。
それは、一種の狂気を孕んだ妄想か。いやいや、気がついたら、この21世紀戦争は宇宙ありきになっている。こりゃあ、太田には「先見の明があった」といわざるを得ない。
そんな人物が書いているんだ。ところどころで痺れる文章に決まっているじゃないか。
そう、ひとつひとつの記述を信じるために読むんじゃない。日常の中で凝り固まった「常識」というサビを、こそぎ落とすために読むんだ。
だいたい、世の中のことを語ろうとすれば、キラキラ語られるのは、選挙がどうとか、現象がどうとか……小賢しいワ。オトギバナシの一つでも、語らうほうが面白いじゃあありませんか!
(文=昼間たかし)
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