”後妻業の女”はなぜ、被害者たちから愛された?『筧千佐子 60回の告白 ルポ・連続青酸不審死事件』
#事件 #本 #凶悪犯罪の真相
昨年11月、京都地裁で死刑判決が言い渡された、筧(かけひ)千佐子被告による連続青酸死事件(弁護側は判決を不服として即日控訴)。2014年に発覚すると世間の耳目を集め、週刊誌やワイドショーをにぎわせていた。判決後、事件の背景を追った書籍も相次いで出版されており、日刊サイゾーでも紹介したルポライター・小野一光氏による『全告白 後妻業の女』(小学館)に続き、朝日新聞記者・安倍龍太郎氏による『筧千佐子 60回の告白 ルポ・連続青酸不審死事件』(朝日新聞出版)が上梓された。
安倍氏は、裁判中から京都拘置所に足しげく通い続けながら、彼女の中に潜む「悪人」を見つめようとする。いったい、凶悪犯との会話から彼が得たものは何だったのだろうか?
簡単に事件の概要を振り返ろう。
94年に、25年連れ添った夫が先立って以降、結婚相談所に登録した彼女は、男性との交際を重ねる。だが、交際相手のうち、裁判で争われただけでも、青酸入りのカプセルによって4人が殺害された。裁判で争われていない交際関係まで含めると、彼女の周りでは実に12人の男たちが謎の死を遂げている。そして、交際相手が亡くなると、結婚して配偶者になったり、内縁関係にあった彼女の元には、多額の遺産が転がり込んでくる。その遺産を使い、先物取引などで作った借金を返済していたのだ。
裁判の最中、彼女の証言は二転三転するも、一貫して被害者や遺族に対する謝罪の言葉はない。「慰謝料を払うことは可能か?」と検察側に問われると、彼女は「私は年金生活者です。そんなんして遺族に払えますか。また人を殺せと言うんですか」と、罪の意識もなく言い捨てている。
その一方で、安倍氏との面会時における彼女の姿は、法廷でのそれとは大きく異なっていた。
「アクリル板越しに接する被告は、私が考えていた人物像とはまるで異なっていた。法廷のようにつっけんどんな態度をとることはなく、毎回のように『来てくれてありがとう』と微笑みながら面会室に入ってきた。話が盛り上がってくると、右手でVサインを作ったり、『仕事忙しいのに、話し相手になってもらって悪いね』と言って私を気遣ったりする姿は、法廷とは別人のようであり、『普通の明るいおばちゃん』のようにしか見えなかった」
安倍氏からのハガキを受け取ると、「ホッコリするハガキが届きまして、嬉しかったですヨ」「短い時間でOKですので、お会いしたいでーす。元気をもらえるかな」と書き、さらには「いくつになっても女です」という一筆まで書き添える。そんな彼女の印象を「凶悪犯とは思えない」と安倍氏はつづる。
もちろん、「千佐子さんは死刑になるべき罪を犯していると思う」と本人に向けて話しているように、安倍氏も彼女の犯行だと確信している。それにもかかわらず、千佐子との会話を重ねていると、その人間的な魅力を感じずにはいられないのだ。安倍氏のみならず、裁判終了後に千佐子との面会に赴いたある裁判員も、拘置所で話しながら泣いたり笑ったりする千佐子を見て、「法廷で見るよりもずっと柔らかい人だった。いったい、どちらが本当の千佐子さんだったんだろう」と話している。そして、そんな千佐子の「善人の顔」を見ながら、安倍氏はこう記す。
「『善人の顔』と『悪人の顔』が場面ごとに切り替わるわけではない。私に冗談を飛ばす被告の明るい笑顔はいったい何だったのだろう。もしかしたら、あの笑顔こそ『悪人の顔』だったのではないか、と今でも考えることがある」
面会室のアクリル板越しにも伝わってくる千佐子が持つ「善人の顔」。その魅力ゆえに、多くの男たちは彼女を愛し、彼女に殺されていったのだ……。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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