いよいよ時代が追いついてきた『lain―scenario experiments』
#雑誌 #出版 #昼間たかしの「100人にしかわからない本千冊」
最近、バーチャルYouTuberやVRchatなど、いよいよ電脳世界で別の自分になれる夢が、現実のものになろうとしている。
考えてみれば、ここ10年あまりの技術の進化は、目覚ましいものがあった。「電脳フィギュア ARis(アリス)」が話題になったのは2008年のこと。これは、専用のスティックを用いてパソコンの画面の中の女のコを触るという技術。これが登場した時には、とてつもない未来がやってきた感があったもの。
でも、もうどうだろう。いよいよ、現実の自分の動きを画面の中の美少女がやってくれるようになっているのである。
いや、ここまで長かった。古くはギブスンの小説『ニューロマンサー』(ハヤカワ文庫)あたりから「ずっと待っていた」という人もいるのではなかろうか。筆者はそれよりも、もう少し後の世代。正直、インターネットの先にものすごい未来があると教えてくれたのは1998年に放送されたアニメ『serial experiments lain』であった。
このアニメ、現在もさまざまな形で語り継がれている。中でもアニメ放送直後に発売になった、PlayStation用ソフトは、今なお多くのユーザーが記憶しているもののハズ。アニメで描かれたネットワークが張り巡らされた世界を、そのまま再現したかのようなゲームは「いったい、何をすればよいのか、まったく理解できない」ソフトだったのである。ともすればクソゲー。なのに、作品全体としては名作として、記憶されている。それは、インターネットが普及する時期に、その概念を教えてくれる作品だったからである。
とりわけ、インターネットとはどういうもので、どんな世界を目指すものなのかを教えてくれたのが、ソニー・マガジンズから刊行されたシナリオ集『lain―scenario experiments』であった。
最近のアニメだと、シナリオ集を出版するとすれば、大判で、イラストページを多く設けたり、いわゆるファンブック形式にするものだろう。
でも、放送直後の1998年12月に発売された、このシナリオ集は新書サイズのとにかくストイックなつくりであった。その最大の特徴は、作中で用いられる用語の詳細な解説を記していることであった。
例えば作中に登場するクラブ「サイベリア」の名称は、サイバーカルチャーを論じたダグラス・ラシュコフの著書からの引用と記す。さらに、ベンチマークテストとは何かとか、不揮発性メモリとは何かなどと、作中の用語がわかりやすく、かっこよく解説されているのである。
中でも、テッド・ネルソンが提唱した「ザナドゥ」の概念の整理は秀逸。そもそも「ザナドゥ計画は、この作品で知った」という人も多いのではなかろうか。
この時は、まだ多くの人が知らない用語ばかりだった。でも、それから20年。「スパム」
だとか「インストール」だとかは、日常の言葉になった。そして、作中で描かれた未来も現実になろうとしている。
これは、明るい未来以外になんと表現しようがあるのか。
(文=昼間たかし)
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