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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.491

この映画で笑った奴らは全員強制労働に従事だ!! 共産主義コメディ『スターリンの葬送狂騒曲』

スターリン暗殺の疑いを持たれていた美人ピアニストのマリヤ(オルガ・キュリレンコ)。フルシチョフとは怪しい関係。

 映画好きな人間にとっては、“面白い顔”スティーヴ・ブシェミの主演作となっている点も見逃せない。スティーヴ・ブシェミは、タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(92)のMr.ピンク、コーエン兄弟のアカデミー賞受賞作『ファーゴ』(96)の誘拐犯など、小心者のチンピラをやらせると抜群の魅力を発揮する名バイプレイヤーだ。映画主演が似合わない性格俳優にスターリンの後継者役をやらせるあたりに、製作サイドのブラックユーモアさを感じさせる。中央委員会の中で日和見的な立場を通す外務大臣モロトフに、英国のコメディ集団「モンティ・パイソン」のオリジナルメンバーであるマイケル・ペイリン。アンサンブル重視の渋いキャストの中で、『007 慰めの報酬』(08)のオルガ・キュリレンコが美人ピアニスト役としてトゲのある花を添えている。

 ベリヤがマレンコフと手を組くんで派閥をつくったことに身の危険を感じたフルシチョフは、秘密警察の存在を目障りに感じているソビエト軍最高司令官のジューコフ(ジェイソン・アイザック)に近づく。敵の敵は味方という理論だ。どこで誰が盗聴しているか分からないので、キョロキョロと周囲を気にしながら小声でクーデターを画策する。とは言っても、フルシチョフもベリヤもマレンコフも含め、誰もスターリン亡き後の明確なビジョンを持っているわけではない。どうすれば、ソビエト共産党による一党支配の中で、自分が生き残ることができるかを考えているだけだった。内政も外交も戦争も、政治家たちが自身の身を守るための手段でしかない。でも、それはスターリンも同じだった。グルジア(現ジョージア)の貧しい靴職人の息子として生まれたスターリンは、革命運動参加後はサバイバルにサバイバルを重ね、その結果レーニン亡き後の最高指導者の座を手に入れることになった。

 正しい理念を持った政治家は失脚&暗殺され、何の理念もなく、節操のない人間たちが最後まで生き残る。古今東西に伝わる歴史的事実を、この映画はブラックな笑いの中で描いてみせている。
(文=長野辰次)

『スターリンの葬送狂騒曲』
原作/ファビアン・ニュリ、ティエリ・ロバン 監督/アーマンド・イアヌッチ
出演/スティーヴ・ブシェミ、サイモン・ラッセル・ビール、ジェフリー・タンバー、マイケル・ペイリン、ポール・ホワイトハウス、ジェイソン・アイザックス、アンドレア・ライズブロー、ルパート・フレンド、バディ・コンシダイン、オルガ・キュリレンコ、アドリアン・マクローニン
配給/ギャガ 8月3日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
C)2017 MITICO – MAIN JOURNEY – GAUMONT – FRANCE 3 CINEMA – AFPI – PANACHE -PRODUCTIONS – LA CIE CINEMATOGRAPHIQUE –
DEATH OF STALIN THE FILM LTD
http://gaga.ne.jp/stalin

 

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最終更新:2018/08/03 17:00
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