『君の名は。』の川口典孝プロデューサーが語る!! これからの海外マーケットとアニメ業界の課題点
#映画 #アニメ #インタビュー
■村上春樹の小説が売れる国では、新海作品もヒットする!?
──劇場公開やネット配信なども含め、今の日本では多彩なアニメーション作品が次々と製作されていますが、華やかな声優に憧れる若者が増えるのに比べ、作品そのものを創り出しているアニメーター志望の若者はそう多くないようです。これからのアニメ業界のことを考えると、よろしくない状況ですよね?
川口 アニメーターの置かれている立場が昔から全然変わっていないんです。CWFや一部の製作会社は劇場用動画一枚につき1000円程度支払うようにしていますが、いまだに200~300円しか出さないところも多いんです。今の日本のアニメ業界は中国マネーやNetflixマネーも入ってきて潤っているはずなのに、アニメーターのギャラはずっと抑えられまま。何かが間違っていますよね。アニメ業界はとても狭い社会なので、動画の値段を口にすることすら憚れる空気がありますが、変えていくべき点は変えていかなくてはいけないと思います。『君の名は。』はヒットしましたが、儲けは業界に還元すべきだと考えて、新人動画マンたちを社員として採用し、育成しているところです。人を育てるのには、長い時間が必要です。CWFはラインがひとつしかない小さなスタジオですが、ラインはお金では買えません。時間を掛けて育んでいくしかない。もし、ラインを2つにすれば、もっと作品を増やすことはできるかもしれない。でも、それだとラインを動かすために仕事をすることになる。自分たちが面白いと思える作品をつくっていくことが大事だと思うんです。
──もうひとつ、川口代表にお聞きしたいことがあります。ハリウッドをはじめ海外では3Dアニメがすっかり主流となっています。日本流の2Dアニメは今後も残っていくんでしょうか?
川口 僕が今から3Dアニメに取り組んでも、ピクサーやディズニーの3Dアニメとの真っ向勝負になってしまう。それよりかは、2Dアニメには2Dアニメのよさがある。描き手の心情がダイレクトに描き込まれる素晴しい表現形態だと思います。いろんなスタッフがスタジオに集まって、ひとつの作品を完成させていく工程も僕は大好きです。せっかく日本で培ってきた技術と才能を、自分から捨てる必要はないでしょう。もちろん、中には「サイエンスSARU」を立ち上げた湯浅政明監督のようにCGと手描きをうまく融合させている天才もいるので、僕も注目しています。新海誠をはじめ、才能あるクリエイターたちがいる限りは2Dアニメは続けるべきだし、守っていくべきものだと思いますね。
──『詩季織々』の公開後は、いよいよ新海監督の新作が待っていますね。
川口 すでに作画に入っています。村上春樹の小説が売れている国では、新海監督の作品も当たると言われているんです。中国はひとりっ子政策が長く続いたこともあり、加えて社会が豊かになったことで村上春樹の世界観や新海作品に共感を覚える人が多いんでしょうね。ロシアでも新海作品はすでに人気があります。季節に変化のない南米や中東では、逆に難しいかもしれませんね。中国では『彼女と彼女の猫』(99)のテレビドラマ化の製作が始まっていますし、ハリウッドでは『君の名は。』の実写版が企画されているところです。ますます、新海作品は海外に広まっていくはずです。ビッケブランカが日本語版の主題歌を書き下ろしてくれた『詩季織々』も含め、ぜひ楽しみにしていてください。
(取材・文=長野辰次)
『詩季織々』
総監督/リ・ハオリン 主題歌/ビッケブランカ
「陽だまりの朝食」
原案・監督/イシャオシン 絵コンテ/森本育郎 演出・編集/今村望 キャラクターデザイン・作画監督/西村貴世 調理シーン作画監督/大橋実 美術監督/馬島亮子 音楽/sakai asuka 声の出演/坂泰斗
「小さなファッションショー」
原案・絵コンテ・監督/竹内良貴 演出/佐土原武之 脚本/永川成基 作画監督/大橋実 美術監督/小原まりこ、友澤優帆 音楽/yuma yamaguchi 声の出演/寿美菜子、白石晴香、安元洋貴
「上海恋」
原案・絵コンテ・監督/リ・ハオリン キャラクターデザイン・演出・作画監督/土屋堅一 美術監督/渡邉丞 声の出演/大塚剛央、長谷川育美
配給/東京テアトル 8月4日(土)よりテアトル新宿、シネ・リーブル池袋ほか公開
(c)「詩季織々」フィルムパートナーズ
https://shikioriori.jp
●川口典孝(かわぐち・のりたか)
1969年東京都生まれ。93年に伊藤忠商事に入社し、98年に漫画キャラクターなどを管理する会社「コミックス・ウェーブ」に出向。『ほしのこえ』(02)を製作中だった新海誠監督の才能に惚れ込み、同作をヒットへと導く。以後、新海監督の初長編作『雲のむこう、約束の場所』(04)や連作集『秒速5センチメートル』(07)を自社配給、DVDを自社発売することで、資金面で新海作品を支え続けた。2007年にMBO(マネジメント・バイ・アウト)を行ない、「コミックス・ウェーブ・フィルム」として独立。同社の代表取締役をつとめている。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事