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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 『君の名は。』Pが語るアニメ界の課題
日中合作アニメ『詩季織々』公開記念インタビュー

『君の名は。』の川口典孝プロデューサーが語る!! これからの海外マーケットとアニメ業界の課題点

アンソロジー作品『詩季織々』の「上海恋」。リ・ハオリン監督が石庫門をモチーフに、少年少女のすれ違いを描いている。

 国内だけで興収250億円、世界興収で3億5,800万ドルを稼ぎ出し、日本映画最大のヒット作となった新海誠監督の長編アニメーション『君の名は。』。新海監督の才能に早くから気づき、製作会社「コミックス・ウェーブ・フィルム(CWF)」を立ち上げたのが川口典孝プロデューサーだ。新海監督は新作を準備中だが、新海監督の作品が公開され、次の作品の企画・脚本を練っている期間を使い、CWFスタッフがフル稼働した日中合作アニメ『詩季織々』が完成した。熱烈な新海ファンを自認する中国のリ・ハオリン総監督、中国の実写畑で活躍するイシャオシン監督、新海作品のCGチーフを務めてきた竹内良貴監督によるアンソロジーもの。それぞれ上海、北京、広州を舞台に、中国で暮らす若者たちが過ぎ去りゆく少年少女時代を想い、大切な人とのすれ違いに悩む姿が描かれている。『詩季織々』の製作事情、合作映画の醍醐味、そしてアニメ界の今後について川口代表に大いに語ってもらった。

──『詩季織々』のビジュアルは新海ワールドを思わせるものながら、そこで描かれているのは中国の若者たちの揺れ動くナイーブな心情。アニメーションならではのユニークなコラボレーションですが、企画の始まりについて教えてください。

川口 日本は戦後50年を要して経済成長を果たしたのですが、中国はわずかここ10年ほどで急成長を遂げたわけです。生活は豊かになったけれど、それまでの暮らしはすっかり変わってしまった。失われつつある街の風景や思い出を残しておきたいと考えている若い世代が少なくないんです。『詩季織々』の総監督を務めたリ・ハオリンもその一人。 彼ははもともとはアニメーション会社に所属するクリエイターだったんですが、新海の『秒速5センチメートル』(07)のような作品を作りたいと努力して、独立してスタジオを起こした人。僕が大好きな紹興酒を手土産に、CWFと仕事がしたいと訪ねてきたんです。それが2013年。CWFは新海監督の作品をつくるためのラインがひとつしかない小さなスタジオなので、なかなか彼の要望に応えることができずにいたんですが、その間に彼がクリエイター業と並行して経営していたスタジオはぐんぐんと成長。CWFよりも大きくなっていた(笑)。『君の名は。』の製作にようやく目処がついたことで、2016年の夏から制作が本格化しました。今回、制作がスムーズに進んだのは、中国側のお金の支払いがとても良かったこともあると思います。「取りっぱぐれないだろうか」と支払期限まで不安を感じることもなく、前払いできっちり振り込んでもらえた。こちらとしても、やる気が出ますよね(笑)。

 

「コミックス・ウェーブ・フィルム」の川口典孝代表。商社出身だけあって、コミュニケーション能力&行動力が高い。

■商社出身プロデューサーならではのビジネス感覚

──海外とのコラボレーションは容易ではないことも多いと思いますが、商社出身の川口代表はそんなトラブルさえも楽しんでいるかのようです。

川口 もちろん、企画が成立するまでは相当に激しいやりとりをしました。これまで日本と中国はアニメでも実写でもいろいろと合作の企画があったわけですが、うまく成功した作品がほとんどないんです。それって、やはり話し合いが徹底されていなかったから。相手が激しく言ってきたら、こちらも熱く応える。それが中国的な礼儀なんです。そこで引いてしまったら、相手に対して逆に失礼になる。その点、僕は商社からアニメ業界に来た男なので、海外アレルギーはまったくありません。リ・ハオリン監督とはお互いに納得できるまで話し合いましたし、作画スタッフはロケハンのため何度も中国に渡っています。中国側のスタッフがいつも親切にアテンドしてくれ、地元料理を食べ過ぎたスタッフはよくお腹を壊していました(苦笑)。CWFのスタッフにとっては、いろんな文化に触れる良い機会になったでしょう。上海を舞台にした「上海恋」で描かれた石庫門は現在ほとんど取り壊されていますが、主人公の男の子リモが幼なじみのシャオユをおんぶして渡る陸橋などは、これから新しい聖地として日本のファンが巡礼するようになれば面白いなぁと思っています。中国と日本との文化交流、世界平和に貢献できればという想いなんです。

──新海監督の作品はアジア全域で人気が高い一方、海賊版が大量に出回っています。自社配給やDVDなどの自社発売にこだわってきたCWFとしては大きな問題ですが、その点はどう考えていますか?

川口 僕がまだ商社にいた頃ですが、新海監督の商業デビュー作『ほしのこえ』(02)の海賊版が中国ですぐに出回ったと聞き、現地まで確かめに行ったことがあります。そのとき現地の法務部長から「著作権という考え方が中国に定着するまで、5~10年かかるかもしれない。いや30年かかるかもしれない」と言われました。よし、それなら時間を掛けて取り組もうと。新海監督が中国でサイン会を開くと、新海作品はそれまで正式上映されたことがないのに大変な人数の行列ができるんです。トークショーを開くと満席です。そこで「新海作品を観たことある人?」と尋ねると、みんな手を挙げるわけです(笑)。中国版のDVDは出していないのに、海賊版をすでに観ているんです。でも、彼らも新海作品を愛してくれる大切なファンだと考えるようにしました。『君の名は。』は中国の映画館で正式に上映され、95億円の大ヒットを記録しました。日本映画としては最大のヒットです。『君の名は。』の海賊版はすでに出回っていたのですが、中国の新海ファンは正規の入場料を払ってきちんと映画館で楽しんでくれたんです。韓国でも『君の名は。』は30億円のヒットになっています。新海ワールドを愛する人たちが世界中に広まりつつあることが実感できましたね。

──中国でも、若い世代を中心に著作権を認識するようになってきたわけですね。『君の名は。』が国内興収250億円のメガヒットになったことは広くメディアに取り上げられましたが、中国で95億円、韓国で30億円の大ヒットを記録したことは国内ではあまり取り上げられていませんね。

川口 『君の名は。』は海外でもヒットしたことで世界興収は3億5800万ドルとなり、これは日本映画では歴代一位になるんです。

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