「考えるよりも感じるんだ」空前絶後の革命への回帰──大谷能生『平岡正明論』
#本
平岡正明は、スゴイのだ。
スゴイだなんて言葉は、あまりにも安易だけれど、筆者の拙い筆では、ほかに表現する方法を思いつかない。
まず、書籍のタイトルが痺れる。『永久男根16』『ジャズより他に神はなし』『あらゆる犯罪は革命的である』『西郷隆盛における永久革命』『山口百恵は菩薩である』などなど……。なんだかわからなくても、本屋の店先に並んでいたら、とにかく手に取るしかあるまいと思う。
じゃあ、そうした平岡の著書には何が書いてあるのか。では、平岡という人は何者なんですか?
──問われると、説明は甚だ困難に直面する。
まず語る相手の情勢認識や知識を値踏みして、それから語り始めると、一晩じゃ終わらない。
職業もなんだ? ウィキペディアを見ると「評論家」とか書いてある。ああ、確かに一般社会に受容されそうな肩書きは、そうかもしれない。でも違うんだ。筆者は平岡は、最後までゲバリスタ……世界革命浪人だったと、思っている。だから、平岡の著書は「ふーん、わかった」と知的好奇心を満足させる本ではない。これから、世界を転覆させるための実践の指南書なのだ。
……だいたい、ここまで話すと9割の人には、話題を変えられる。世界革命浪人の同士である竹中労、あるいは途中で袂を分かった太田竜の話までは続かない。
革命論から、水滸伝、ジャズに山口百恵に、石原莞爾に大道芸。世の中のあまねく事象をひとつの軸へと絡め取る平岡の思想のそれらを、コンパクトに語るのは到底難しい。既に没後9年あまり。そんな本を誰か書いてはくれないものかと思っていたら、出た。ついに出た。
それが、この本への率直な感想である。
「ほかの人がやってくれればよかったんですが、誰もやってくれないから、自分が書いたんです」
謙遜しながら語る大谷。でも、情熱がなければ、ここまで平岡の思想を、まったく読んだことのない人でもわかる本ができるだろうか。
この本で、大谷は三十六段にわけて、平岡の痺れる言葉を引用しつつ、それぞれの著書で語った思想を解説していく。
「平岡は、20世紀のもっとも大きな動きとして、共産主義革命とファシズムを描き、その一方で芸能であるとかを書いています。それらは、すべてつながっているんです。すべてのことを、常に世界規模で考えている。そういうある種のテーマの大きさとブレのなさこそが、平岡の本質だと思うのです」
三十六段それぞれには、これまた震える見出しが続く。「きんたまの使用法」「武装のための理論武装」などなど。それぞれが、独立し読みたいところから読める構成になっているがゆえに、まったく平岡正明を知らなくても、わかりやすい。「初心者向け」という言葉がよく似合う。
「平岡の著書を全部を読むのは大変なので、これを読むとだいたいわかる……そんな本を目指したんです。人に紹介する時は、この本と、平岡の著書を何か一冊をつければいい。相手次第で、音楽好きだったらジャズ系を論じたものを渡すとかして……」
平岡が屹立を始めた1960年代に比べると、現代は明らかに停滞している。SEALDsのようにカネや太鼓をドンチャカしていれば、世の中が変わるかのような幻想を抱かせるものが、「新しい運動」であるかのように称賛される時代。思想の左右によらず、すべては体制の中でのメンテナンスの呪縛から逃れられないでいる。
そんな時代に、再び甦った平岡正明。SEALDsのような「新しい運動」にも、在特会のような「行動する保守」にも、ピンとくるものがないならば、今すぐこの本を開いてみるといい。
今まで、存在していたはずなのに気がつかなかった“鳴り”が聞こえてくるはずだ。
(文=昼間たかし)
●おおたに・よしお
1972年生まれ。批評家、音楽家。96年~02年まで音楽批評誌「Espresso」を編集・執筆。さまざまな雑誌、webへの執筆・寄稿を行い日本のインディペンデントな音楽シーンに深く関わる。著書に『貧しい音楽』(月曜社)・『ジャズと自由は手をとって(地獄に)行く』(本の雑誌社)。共著に『憂鬱と官能を教えた学校』(河出書房新社)など。
<書誌情報>
『平岡正明論』
価格:2,592円(税込)
発行:Pヴァイン
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