レイプ殺人や自殺が相次ぐ犯罪多発地域とは……!? 米国騒然の社会派サスペンス『ウインド・リバー』
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本作を脚本から手掛けたのはテイラー・シェリダン監督。米国麻薬取締局とメキシコの麻薬カルテルとの麻薬戦争を題材にした『ボーダーライン』(15)は続編化、借金返済のために田舎の銀行を次々と襲撃するテキサス暮らしの兄弟を描いたNetflix配信映画『最後の追跡』(16)はアカデミー賞作品賞&脚本賞にノミネートされた人気脚本家だ。ネイティブアメリカン保留地区の悲惨な現状を掘り下げた本作は、「第70回カンヌ映画祭・ある視点部門」監督賞を受賞。深い雪に閉ざされた僻地での撮影の苦労を評価された。テイラー監督は本作を『ボーダーライン』『最後の追跡』に続く〈現代アメリカの辺境〉三部作の最終作と位置づけ、このように語っている。
テイラー「米国の辺境と呼ばれる地域の中でも、最も明白であり、米国最大の失敗であるのがネイティブアメリカン保留地区。人が住むべきではない土地に人を強制的に住まわせると、どのようなことが起きるかをこの映画では追っているんだ。そこは地形的に敵に向かっていくような冷酷な地であり、癌よりも殺人による死亡率が高く、強姦は大人の女性になろうとしている少女たちにとっての通過儀礼と見なされているような地域なんだ。そこでは法の支配が自然の支配に屈してしまうんだよ」
米国南部のテキサス州生まれのテイラー監督だが、ワイオミング州で育った時期もあり、また実際に現地で暮らすことでネイティブアメリカンたちとの親交を深め、彼らの協力を得ることで本作を完成させた。
テイラー「ウインド・リバーに住む先住民族たちは、120年前にそこへ連れていかれ、次の春が来るまでには別の土地へ移住するはずだったのが、それ以来ずっと住まわされ続けている。北米でここほど貧しく、苦しんでいる場所はないという思いから、映画づくりを決意したんだ。こんな土地に住むと、天候がすべてを左右し、人間の命も奪われかねない。夏は洪水、冬は雪のために、公共機関は数週間にわたって停止することが毎年起きている。ここで生活することはとても難しい。でも、とても美しい土地でもある。タフにならざるを得ない土地なんだ。この映画は世間から完全に無視された保留地区に光を当てた作品なんだ」
民族としてのアイデンティティーを根こそぎ奪われ、政府からのわずかな生活保護を頼りに生きてくしかないネイティブアメリカンたちの悲痛な叫びすらも、雪山の静寂さの中に吸い込まれていく。テイラー監督の渾身作『ウインド・リバー』は、住むべきではない土地で暮らすことを余儀なくされた人間たちの苦悩を描いたとてもリアルな現代の西部劇である。
(文=長野辰次)
『ウインド・リバー』
監督・脚本/テイラー・シェリダン 音楽/ニック・ケイヴ、ウォーレン・エリス
出演/ジェレミー・レナー、エリザベス・ハンセン、ジョン・バーンサル、ギル・バーミンガム、ケルシー・アスビル、グラハム・グリーン
配給/KADOKAWA 7月27日(金)より角川シネマ有楽町、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
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http://wind-river.jp
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