原作&アニメ版とは別人のすずだが、これはあり!? 戦艦大和の入港に歓喜『この世界の片隅に』第2話
#ドラマ #TBS #松坂桃李 #どらまっ子 #この世界の片隅に #松本穂香
こうの史代のベストセラーコミックを原作にした実写ドラマ版『この世界の片隅に』(TBS系)。第1話の25分拡大に続き、第2話も15分拡大とTBSが若手女優・松本穂香を主演に大抜擢した今回の日曜劇場に相当の力を注いでいることが分かります。戦艦大和や巡洋艦青葉も登場し、ミリタリーマニアを歓喜させた第2話を振り返りましょう。
(前回までのレビューはこちらから)
昭和19年(1944)3月。広島市江波から呉市の北條家へ嫁入りしたすず(松本穂香)は初夜を終え、北條家の嫁としての新しい生活が始まります。婿の周作(松坂桃李)の寝顔を眺めて、にやにやしている場合ではありません。丘の上にある北條家には水道が通っておらず、朝イチで井戸の水をご近所まで汲みに行かなくてはならないのです。義母のサン(伊藤蘭)は足が不自由なため、がんばってすずが働かなくてはいけません。かまどでのご飯炊き、洗濯、掃除縫い物、また水汲み……と励みます。かっぽう着姿のすずの日常風景に、ジブリ映画を思わせる久石譲の音楽が優しく流れます。
片渕須直監督の劇場アニメ版が上映時間126分に凝縮されていたのに対し、実写ドラマ版は日常生活の中で周作をはじめとする北條家の人々や隣組の刈谷タキ(木野花)、幸子(伊藤沙莉)親子らと交流していく姿をじっくりと描いていきます。片渕監督のアニメ版も、企画当初は原作エピソードを余すことなく活かすため、テレビシリーズ化することも検討されていたそうです。戦時下を生きるすずの何気ない日常風景を映し出すことは、『この世界の片隅に』のいちばんのキモでもあります。すず役に選ばれた松本穂香が、実写版『この世界の片隅に』の実力派アンサンブルの中に次第に溶け込んでいく過程を、時間を掛けて描いていけるのは、連続ドラマならではのメリットでしょう。
■幼少期の記憶を甦らせたキャラメルの味
北條家での生活にすずがようやく慣れ始めて1カ月。周作の姉・径子(尾野真千子)が娘の晴美(稲垣来泉)の手を引いて現れます。気が強い径子は、亡くなった夫の実家との折り合いが悪く、呉で一緒に暮らすと言い出します。小姑・径子はすずがそれまで任されていた家事をすべてやることで、すずの居場所を奪おうとします。でも、のんびりしたすずは径子の悪意には気づかず、径子の「実家に帰れば」という言葉を真に受けて、「ありがとう、義姉さん」と喜んで広島に里帰りするのでした。すずのこの鈍感力は、厳しい時代を生きていく上で重要なものです。
日々の家事と周囲への気遣いのために疲れて眠り込んでしまったすず。ふと目を覚ますと、そこは実母・キセノ(仙道敦子)たちのいる懐かしい我が家でした。呉で過ごした1カ月がまるで夢の中の出来事のように、まだ子ども気分の抜けないすずには思えます。実家に帰ってきて寝てばかりいるすずをたしなめるキセノでしたが、すずの頭に十円ハゲができていることに気づいてしまいます。のほほんとしているようで、娘もそれなりに苦労しているようです。自分の嫁入り時代を思い出し、あまりうるさくは言わないキセノでした。
ぼーとした性格のすずは、母親似ではなく、どうも父親の十郎(ドロンズ石本)似のようです。十郎からお小遣いを手渡されたすずは、久しぶりに広島市の繁華街へと向かいます。大好きなキャラメルの甘さに悶え喜びながら、すずは太田川沿いに建つ産業奨励館を眺めるのでした。昔もここでスケッチしたっけなぁ……と幼年期のことを思い出したすずは、人さらいに拉致された際に一緒にキャラメルを食べ、人さらいから救ってくれた男の子が周作だったことに気づきます。キャラメルはすずと周作を結びつけた運命の味だったのです。いつもはマイペースなすずですが、このときばかりは涙を浮かべながら猛ダッシュで周作のいる呉へと帰還するのでした。
すずが呉へ走って帰るエピソードは、原作にはない岡田惠和脚本のオリジナルシーンですが、第2話でいちばんの盛り上がりを見せました。はっきり言って、松本穂香演じるすずは、原作のすずとは別人です。もちろん、のんが声優として演じた劇場アニメ版のすずともまったく異なります。でも、自分が置かれた状況の中で、自分を必要としてくれる人のために一途になれる実写版すずの姿を視聴者は嫌いにはなれません。原作&劇場アニメ版をリスペクトしながらも、岡田惠和脚本は連ドラ版としての独自の世界を目指していることが伺えます。
呉へ戻ったすずですが、径子がいる北條家にはなかなか入ることができず、海が見渡せる丘の斜面で時間を潰すのでした。職場から帰ってきた周作がすずを見つけ、2人で海と空が広がる美しいパノラマを眺めます。そのとき、巨大な軍艦が呉港に姿を現わします。呉海軍工厰で建造された世界最大の戦艦大和です。周作は海に向かって大きな声で叫びます。「おかえり~、大和! おかえり~、すずさん!!」。周作の優しさに包まれ、きっとすずの十円ハゲもそのうち治ることでしょう。
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