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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 安藤政信が女性器を撮り続ける映画
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.489

女性器をひたすら撮り続けたカメラマンがいた!! 安藤政信主演『スティルライフオブメモリーズ』

 本作のモチーフとなっているのは、フランスの画家・写真家アンリ・マッケローニの写真集『とある女性の性器官写真集百枚 ただし、二千枚より厳選したる』。マッケローニが2年間にわたって恋人の女性器を撮り続けたものだ。フランスでマッケローニが初めて写真展を開いた際は、婦人団体の抗議運動が起き、大変な騒ぎになったらしい。2016年にマッケローニは亡くなったが、今でも彼が情熱を注いだ写真集は、日本への輸入は禁じられたままとなっている。そんなマッケローニの逸話をもとに映画化したのは、R指定作品『ストロベリーショートケイクス』(06)や『不倫純愛』(11)などを手掛けた矢崎仁司監督。前作『無伴奏』(16)では成海璃子の初濡れ場が話題を呼んだが、池松壮亮と斎藤工との過激なラブシーンがより印象に残った。世間的にアンモラルとされる題材を扱うことで、本領を発揮する監督である。

物語の後半、春馬と怜はそれまで撮り溜めていたフィルムを現像することに。2人の脳裏には出会ってからの日々が鮮明に甦る。

 春馬が質問することを怜は禁じていたが、逆に怜は春馬に尋ねる。どうしてカメラマンになったのかと。春馬の答えはこうだ。若い頃に一枚の気に入った写真を見つけ、自分もその写真の中へ入っていきたいと思うようになったのだと。被写体と一体化するためにカメラマンになったのなら、今の春馬は怜の女性器の中へ入っていきたいということになる。むきだしの怜そのものと一体化したいということではないのか。

 春馬が撮影したフィルムを現像することを拒んでいた怜だったが、「フィルムは撮影しただけでは未完成なんだ」と春馬から懇願され、それまで撮り溜めていたフィルムを現像することに同意する。暗室の中、現像液にひたした印画紙から次第に怜の大切な部分が姿を現わし始める。写真の中の怜の女性器は一枚一枚が違った表情を見せていた。それは怜が女として生きている証しであり、怜と春馬の想いがひとつになった瞬間でもあった。

 女性器は不思議だ。ひとつひとつの花が色や形が異なるように、ひとりひとりの女性器もずいぶんと異なっている。女性器をずっと見つめていると、まるで女性器そのものがその人の中心であり、手足や頭は女性器に付随した部位であるように思えてくる。街を行き交う人たちは、女性も男性もみんな逆立ちをして、本当の顔を隠しながら歩いているかのようにすら思えてくる。女性器を見つめていると、やがて女性器は語り掛けてくる。彼女は何を伝えたがっているのだろうか。ただじっと見つめ、静かに会話するしかすべはない。
(文=長野辰次)

『スティルライフオブメモリーズ』
原作/四方田犬彦 脚本/朝西真砂、伊藤彰彦 監督/矢崎仁司
出演/安藤政信、永夏子、松田リマ、伊藤清美、ヴィヴィアン佐藤、有馬美里、和田光沙、四方田犬彦 
配給/「スティルライフオブメモリーズ」製作委員会 7月21日(土)より新宿K’s cinemaほか全国順次ロードショー
(c)2018 Plaisir/Film Babdit
http://stilllife-movie.com

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最終更新:2018/07/20 17:00
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