「貸出履歴は個人のプライバシー」大炎上の三郷市小学校図書館は、何が問題だったのか
#本 #出版
学校図書館の貸し出し記録をデータベース化して「活用」する埼玉県三郷市の小学校が実施している取り組みが、批判にさらされている。きっかけとなったのは、この取り組みに関する報道だ。
いったい、何が問題だったのか。
問題の発端となったのは、不動産事業を行うハウスコムが運営するサイト「Living Entertainment」に掲載された『1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校「社会問題の根幹にあるのは読書不足』というタイトルの記事(http://media.housecom.jp/misato/)。
この記事で取り上げたのが、同市が実施する「日本一の読書のまち」という施策に絡む、三郷市立彦郷(ひこさと)小学校の取り組みだ。
ここでは、この小学校の取り組みが、次のように記されている。
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三郷市は平成20年に読書活動を教育重点施策に掲げると、翌年には学校図書館のデータベース化を行い、平成22年には三郷市にある全ての学校でコンピュータ管理システムを整備しました。
前述の三郷市立彦郷小学校の鈴木勉校長によると、データベース化を行うことによって、児童ごとの読書傾向を学校側が把握できるようになり、今どんな本を読んでいるのか、あるいは1ヶ月で何冊の本を読んでいるかなどを的確に把握できると言います。
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これが、瞬く間に批判を集めた。図書館において利用者が、どのような本を借りているかは絶対に漏らしてはならないもの。読書傾向から、個人の思想や嗜好といったプライバシーを丸裸にすることができるからだ。日本図書館協会の「図書館の自由に関する宣言」でも「読者が何を読むかはその人のプライバシーに属することであり、図書館は、利用者の読書事実を外部に漏らさない」ことを定めている。つまり、図書館に関わる者なら、絶対に守らなくてはならない大前提だ。
「近年では佐賀県武雄市の市立図書館がカルチュア・コンビニエンス・クラブを指定管理者にした際、Tポイントがたまる利用者カードにしたことで貸出履歴が図書館の業務以外に利用されるのではないかと問題になりました。ほとんどの図書館では、貸出履歴が、ほかの目的に利用できないようにするため、返却したら借りた人のデータが前回の1回分だけを残して消去されるようになっています」(図書館関係者)
図書館関係者の貸出履歴に関する意識は繊細そのものだ。とりわけ、今でも語り継がれるのはスタジオジブリの映画『耳をすませば』(1995年)に絡む事件。
「よく知られている通り、この映画は貸出カードが、ストーリー展開上、重要な要素として描かれていますが、図書館業界では大きな問題となりました。これを契機に全国的にカードの廃止が進んだという経緯があるのです」(図書館関係者)
批判を受けて三郷市側は、データ利用は貸出回数やクラスごとの貸出冊数といった数値だけという釈明に追われている。実施する側も取材する側もこの件に問題があることを理解していなかったことが、もっと大きな問題であろう。
(文=特別取材班)
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