トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 岸井ゆきのは、深津絵里の再来?
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

『モンテ・クリスト伯』でも好演! 岸井ゆきのは“90年代の深津絵里”の再来か

 それは、彼女の経歴に関係があるのかもしれない。

 岸井は小学校1年生から中学校3年生まで、器械体操の選手を目指して練習に打ち込んでいた。だが、練習中にバク転に失敗して以降、怖くなって跳べなくなってしまい、体操をやめてしまったという挫折の過去がある。高校生になり、新しい道を模索していたところ、女性カメラマンと知り合い、モデルを務めたことがきっかけで安藤サクラや門脇麦が所属する芸能事務所ユマニテから声がかかり、演技の道へと進むことになった。

 どんな役を演じても彼女の芝居には奥行きがあり、どこか影がある。それは彼女が、挫折を知っているからだろう。

 彼女の出演したCMで、とても印象に残っているものがある。

 就活生を演じた東京ガスのCMだ。仲間たちが次々と内定をもらっていく中、彼女だけは落ち続け、それが原因で両親とも気まずくなっている。そんな中、ついに最終面接までこぎ着け、内定間違いなしと手ごたえを感じた面接も、やっぱり落ちてしまう。

 CMは一応、母親が優しく励まして、前向きな感じにまとめようとしている。しかし、見終わった後の後味の悪さがすさまじかった。そのため視聴者から批判が相次ぎ、放送開始直後に打ち切りとなってしまったのだが、これは岸井の演技があまりにもリアルだったからだろう。

 暗い影を背負った業の深い特別な人になるというよりは、普通の人が抱えている不安や自信のなさを切なく演じられ女優で、コメディもシリアスもできるという意味では、90年代の深津絵里に近いのかもしれない。

 そういう女優ゆえに、匿名性が高くなって、名前が印象に残らないのだろうが、次回のNHK連続テレビ小説『まんぷく』への出演も決まっているため、岸井ゆきのの名が全国に知れ渡るのも時間の問題かと思う。だが、有名になっても、普通の人の切なさを演じられる感覚は持ち続けてほしいと願う。

(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2018/07/09 14:00
12
ページ上部へ戻る

配給映画