「会いたい」「人恋しい」「寝床がうまい」資産家を籠絡する連続殺人犯の手口とは?
#本 #犯罪
2013年12月末に京都府で起こった青酸化合物による殺人事件は、当初捜査関係者も予期していなかった驚くべき展開を迎える。
この事件で夫を殺害したとして逮捕された妻の筧千佐子被告は、過去に夫や交際相手を殺し、多額の遺産を相続していたことが発覚。最初の夫が死亡した1994年以降、交際や結婚を繰り返していた彼女の身の回りでは、実に10人もの男たちが死亡していたのだ。
裁判によって、3件の殺人事件と、1件の強盗殺人未遂罪から京都地裁によって死刑判決を言い渡された千佐子と面会を続け、事件に迫ったノンフィクションライターの小野一光は、『全告白 後妻業の女「近畿連続青酸死事件」筧千佐子が語ったこと』(小学館)を上梓した。本書の記述から、事件の内容と、千佐子という人物の恐ろしさを見てみよう。
地方銀行を寿退社した千佐子のいちばん初めの結婚生活は、1969年から25年にわたって続く平凡なものだった。2人の子どもに恵まれ、プリント工場を設立した夫妻だが、千佐子の勝ち気な性格が災いし、旦那の実家との関係はうまくいかなかった。夫の死後、彼女は工場を引き継いだものの、先物取引などによって作った借金が膨れ上がり、工場は競売にかけられてしまう。
彼女が資産家たちを次々と毒牙にかけていったのは、工場を廃業した2001年以降のこと。02年、05年、06年、07年、08年と交際相手や結婚相手が急死を遂げており、その後も、最後の事件となった13年末までほぼ1~2年ごとに不審死は続く。生前に公正証書を作成し、相手親族の反対を押し切ってまで結婚を強行した彼女は、不審死のたびに数百万~数千万の遺産を相続し続けていったのだ。結婚相談所を通じて男性たちに接近した彼女が提示していた交際相手の希望条件は「年収1,000万円以上」「歳はなんぼでもいい」「健康でなくてもいい」という、あからさまなものだったという。
裁判において、その証言は二転三転し、「黙秘します」と宣言したすぐ後に犯行を認めるなど不可解な発言が数多いものの、一貫して被害者に対する謝罪の言葉を述べることはなかった千佐子。135日間の長い審理期間の末、京都地裁は「極刑を選択せざるを得ない」と死刑判決を下したが、その顔に反省の色はなく、まるで他人事のようにしれっとしたものだったという。
また、彼女の恐ろしさは、犯した事件の残忍さだけではない。彼女の自身のパーソナリティもまた、「異常」という言葉がふさわしいものだった。
拘置所で彼女と面会した小野は、その様子をこう綴る。
面会に訪れる20歳も年下のノンフィクションライターに対して、「人恋しい」「会いたい」と、まるでラブレターのような手紙を送る彼女の行動は、「女」を使いながら彼を籠絡しようとするものだった。さらに、別の男性に対しては「寝床が上手」とも話し、「それしたら男が公正証書でも何でも書く」という自信を見せていたという。そんな手練手管が、人生経験豊富なはずの資産家たちの心を鷲掴みにし、彼らの愛情と信頼を獲得していった。遺産という目標を獲得するために、男心をくすぐることに成功した彼女は、健康食品と偽った青酸化合物入りのカプセルを飲ませて彼らを殺害していった。
その一方で、小野が事件について質問を投げかけると、途端に彼女の目の奥は「漆黒」で満たされる。「すべては私の主観でしかない」と断りながらも、小野は「死刑が確定した5人の殺人犯と会ってきたが、いずれも同じ目を私に見せている」と記述する。事件について語る千佐子からは、まるで良心の呵責が感じられず、これまで幾多の凶悪犯罪を取材してきたノンフィクションライターをして「底が見えない」と言わしめるほどの狂気を感じさせるものだった。
今回の裁判において争われた4件は、小野の取材によって判明した不審死の一部にすぎない。おそらく、事件の全容はまだ明らかにされていないのだろう。何よりも、筧千佐子という人間の「底」は、まだ解明されていないのだ。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])
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