原作ファンを裏切った真利子監督の“宮本愛”!! エンドマークなき閉幕『宮本から君へ』第12話
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■視聴者を置いてけぼりにした驚愕の幕切れ
4月からスタートした『宮本から君へ』は第12話となる今回が最終回です。コンペに破れた宮本は、原作どおり年上のOL・中野靖子(蒼井優)との仲を深め、これからの希望を感じさせるエンディングになるのだろうと予測していたのでしたが、真利子哲也監督はそんな原作ファンの期待をあっけなく破りました。第1話から第11話までずっと新井英樹の原作コミックに忠実に映像化してきた真利子監督は、熟考に熟考を重ねた挙げ句、最後の最後で暴走してみせたのです。人生のどん底にいる宮本の前に、包容力のある大人の女・靖子ではなく、過去の女・美沙子を出すのでは意味合いがまったく異なります。
再会を果たした宮本と美沙子はバーに立ち寄り、カクテルを傾けながら近況を伝え合います。美沙子と付き合っていたのは、わずか数カ月前のことなのに、ずいぶん昔のことのように思えてきます。美沙子には酷い捨てられ方をした宮本ですが、昔と同じような笑顔を浮かべる美沙子を見ているとどうでもよくなってきます。美沙子は甘く囁きます。「私たちあのまま付き合っていたら、どうなっていたかな。相性はよかったんだよ」と。美沙子とは1回だけSEXした直後に別れたのですが、美沙子は「相性はよかった」と証言しているので、SEXが別れた原因ではなかったようです。宮本ならずとも男性視聴者がホッとした瞬間です。
美沙子は宮本を捨てて、元カレとヨリを戻したわけですが、結局はまたそのカレに捨てられたそうです。捨てられた翌日に宮本と遭遇したので、美沙子は宮本こそが自分にとっての“運命の人”だと感じているようです。美沙子をもう一度抱いて、仕事の悔しさを忘れればいいじゃないか。これは一生懸命頑張った自分への、神さまからのご褒美に違いない。宮本の頭の中には、そんな考えが去来したことでしょう。ですが、宮本は棚から落ちてきたボタモチは決して口にしようとはしません。自分の手で掴み取って豪快に食べてこそのボタモチなのです。
宮本「ぶっ殺すぞ! このクソったれ女! 俺とてめえの関係は憎むか惚れるかの二つに一つだ。どっちだ、不幸美人さんよお! てめーがいい顔すれば、誰だって尻尾振ると思ってんのか!?」
バーを出た宮本はあらん限りの暴言で、追いすがろうとする美沙子を罵倒し尽くします。つらいことがあるとどうしても身近な男性に依存してしまう美沙子に対する、宮本なりの精一杯のエールでした。「宮本さんのバカッ!」という美沙子の怒声を背中に浴び、宮本は「くそ! くそ!」とつぶやきながら夜の街へと消えていくのでした――。
「えっ、これが終わり?」と多くの視聴者が驚いたTVドラマ版『宮本から君へ』のエンディングです。原作コミックの三分の一も消化できていないので、第2シーズン、第3シーズンに期待を寄せる声もネットには上がっています。本編そのものには「終わり」とも「完」とも打たれていませんが、でもTVドラマ版『宮本から君へ』はこのブツ切れ感ある終わり方がやはりベストでしょう。靖子でも美沙子でも、宮本が異性との恋愛に生きる希望を見出しての終わり方では、宮本が美沙子に誘われて会社をサボって海へ出掛けた第3話の頃からちっとも成長していないことになるからです。人間はそう簡単には成長しません。でも、宮本はどん底の中で辛酸を舐め尽くすことで、さらにパワーアップした猛烈な暴走をいつかまた見せてくれるはずです。
孤高の漫画家・新井英樹の会社員時代の体験をベースにした原作コミック『宮本から君へ』ですが、実際に新井英樹は飯田橋にあった文具メーカーを1年2カ月で辞め、漫画家へと転職します。『宮本から君へ』で長編デビューを果たして以降、その過激さに拍車が掛かり、漫画史に残る『愛しのアイリーン』(安田顕主演映画として、9月14日より劇場公開)や『ザ・ワールド・イズ・マイン』といった大暴走ドラマを生み出すことになるのです。
池松壮亮が全力で演じ切った宮本浩は、結局は仕事も恋愛も何ひとつうまく収まりませんでしたが、そのガムシャラな暴走ぶりは、まるで夜空を彩る流れ星のように観る者の心に焼き付きました。そして、夜の街へと人知れず消えていきました。宮本が残したものは一体、何だったのでしょう? 職場や飲み会の席で、受け取ったり、差し出す名刺が、今後はこれまでになく重く感じられるのではないでしょうか。とてもちっぽけだけど、名刺一枚分の熱さと重さを視聴者に伝えて、宮本は去っていったように思います。3カ月間にわたる大暴走の熱い余韻を残し、宮本浩は伝説のサラリーマンとなったのです。
(文=長野辰次)
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